陽斗が思い至ると同時に、足元が渦を巻いた。いつの間にか水で浸されている。

 瞬く間に突き上がった水柱を何とか避けた。

「あ、もしかしてトラウマが蘇っちゃった?」

 くすくすと霊媒師は笑う。

 トラウマ────瑚太郎、いやヨルに襲われたときのことを言っているのだろう。

「……確かに死ぬ思いしたけど、トラウマになるほどじゃない」

「なーんだ、つまんない」

 何故、彼女はそのことを知っているのだろう?

 霊媒師や祈祷師といった存在は、魔術師とは独立していると捉えていいのだろうか?

 そうでなければ、同じ魔法を使っている点に説明がつかない。

 ────だが、ともかくそんな疑問は後回しだ。

 今は霊媒師を倒すことに集中する他ない。

 彼女が祈祷師と同類なのであれば、自分を殺しに来たに違いないのだから。

 陽斗は素早く駆け出すと、その肩目掛け氷剣を突き刺した。

「……っ」

 じわ、と彼女の服が赤く染まる。

 霊媒師は怯みつつ、痛みに悶絶した。

「なんだ。何かえらそーにしてるけど、普通に攻撃当たるし……思ったより弱い?」

 率直な感想を述べた陽斗だったが、霊媒師にとっては侮辱に等しかった。

「うっざ、何それ……。調子乗んないでよ」

 霊媒師は炎で氷剣を溶かした。その炎が陽斗の腕を伝ってくる。

「あつっ」

 皮膚に火傷を負ったが、当然ながら痛みはない。

 霊媒師はさらに追撃する。塊のような炎を陽斗へ放つ。

 陽斗は水魔法を使い、その炎を消した。手を銃のように構え、霊媒師に向け水弾を飛ばす。

 霊媒師は軽やかに飛んで避けたものの、一発だけ左腕に被弾した。

「よし……」

 陽斗が手応えに喜ぶ間もなく、すぐさま同じ攻撃をして返された。

 霊媒師と同じ位置に命中する。左腕に走った衝撃に思わず怯んでしまう。

「いってぇ……くはないけど! くっそ」

 腕からはどくどくと血があふれた。

 同じ技を食らわせた彼女の腕と比較しても、陽斗の方が重傷である。

「水鉄砲、これ便利だよねー。……あれあれ、どうしたの? 悔しそうだね?」

 余裕を取り戻した霊媒師は挑発するように首を傾げた。

「ま、当然だよね! あんたのは所詮コピー。偽物はオリジナルには敵わない、これ常識」

 霊媒師の言う通り、それはコピー魔法の弱点の一つだった。

 瞬間移動にしても思い通りにコントロール出来ない。攻撃にしても威力が弱まる。

 オリジナルと戦ったとき、どうしてもコピーは敵わない。

「うっせぇ……。だったら数打つ!」

 陽斗は両手を構え、機関銃の如く水弾を連射した。

 霊媒師はふわりと舞い上がり、空中へ逃亡する。あれは小春の魔法と同じものだろう。