いや、ちがっていた。
そんな打算的な思惑ではなく、大雅は純粋に気になったのだ。律の真意が。
冬真に支配されていない状態の彼なら、自分の言葉をどう受け止めるだろう。
「手、組まねぇか?」
律は真剣な面持ちで見返す。
「ゲームの駒としてくたばるより、どうせなら運営側を直接相手して抗おうぜ。ムカつくだろ、この理不尽。連中の手の内に留まるのも」
「…………」
運営側を相手取ろうとしていることは、あらかじめ聞いていたため驚きはしない。
自分に声をかけてくるとは意外だったが。
「……だが、そうすると如月が独りになる」
「仲間でもねぇんだろ?」
「ああ。……でも“戦友”だ」
「だったら腹決めろ。どうしても冬真と反目するのが嫌なら、いまのうちに殺しとけ。それか────」
大雅は彼の涼しげな横顔を見据える。
「本当に戦友なんだったら、おまえの言葉に耳を傾けるはずだ」
律は自分でもどこか信じがたい気持ちになった。
思ったよりも、大雅の提案に抵抗がないのだ。
少なくとも運営側に嫌悪感を抱いているのは確かだから。
しばらく押し黙った律は、ややあって口を開く。
「時間をくれ」
一朝一夕で決められる問題ではなかった。
ここまで漫然とゲームの中で生きてきた。
けれど、大雅の提案に対する答えは、その選択は、否が応でも能動的になることを強いてくる。
冬真との関係性も試されることになる。
それは、これまでの自分の行動に対する価値を意味づけるような気がした。
「どうせ如月が目覚めるまで何もできない。少なくともそれまでは、おまえらに手出ししないと約束する」
「ああ、分かった」
大雅は潔く了承して立ち上がる。
慌てる必要はない。急かすことも強いることもしない。
決めるのは律だ。
「如月とあの遺体の始末は任せておけ」
「頼む。……じゃあな」
学校をあとにした大雅は歩を進め、角を曲がった。
先ほどの色濃い出来事を蓮たちにテレパシーで伝えるべく、顳顬に人差し指を添える。
そのときだった。
「……おまえ、百合園うららの協力者だな?」
聞き慣れない女子の声がした。どこか恨みの込もったような低い声色だ。
はっとして振り向くと同時に、頭に強い衝撃が落ちてきて、目の前が真っ暗になった。



