ふっと冬真の瞼が落ち、崩れ落ちたのを彼は受け止めた。
「よしよし、寝んねしてな」
眠りに落ちた冬真を地面に横たえる。
傀儡にされていた陽斗の遺体が再びどさりと倒れた。
意識が途切れたことで、その能力も解かれたようだ。
「さーてと、きみたちは……」
至は次に、大雅と律を顧みる。
「……律。おい、律……!」
大雅は思わず、我を失っている彼に呼びかけた。
はっとして顔を上げた律は、倒れている冬真に気がついた。
やっと周囲の状況を把握する。
「おまえ、何を────」
「安心してよ、きみたちには何もしない。彼を眠らせたのは……うーん、まあ気まぐれ?」
敵意を剥き出しにした律だったものの、至は優しい笑みでなだめた。
ふわぁ、とあくびをする。
「気が向いたら起こしにくるよ。それじゃ」
こちらの言葉は何であれ、一切受けつけるつもりはないようだ。
一歩踏み出した至の姿が透明になって見えなくなった。
足音がふたつ、遠ざかって消える。
「…………」
────彼は、敵か。味方か。
重たい身体を起こして座った大雅は、冬真を起こそうとしている律を制した。
「無駄だ。俺たちが起こしても、またすぐに眠っちまう。至本人じゃなきゃ完全には起こせない。身をもって体験しただろ?」
彼は冬真と大雅を見比べ、諦めたようにその場に腰を下ろした。
「……桐生、大丈夫なのか?」
そう尋ねられ、大雅は思い出したように口元の血を拭った。
荒かった呼吸や激しい動悸も落ち着き、身体中の痛みもおさまっている。
「平気だ」
そう答えつつ、意外に思った。律が案じてくれるとは。
「それより、さっきの……気づいたか? 至のほかにもうひとりいた」
「もうひとり?」
「ああ、ずっと透明化してたけど確かにいた」
律は気づいていないようだった。
最初に声が聞こえた時点では眠っていたし無理もない。
「透明化……。術者はあの男か、一緒にいた奴か」
「後者だろーな。至の異能なら一緒に来る必要ねぇし」
納得したように律は「確かに」と頷いた。
「……それにしても強いな。下手したら、透明状態のまま眠らされるわけだろ? 何が起きたか分からないうちに。敵の姿すら見えていないうちに」
「…………」
ふと、大雅は冬真を見やった。
深い眠りについた彼が、自ら目覚めることはないだろう。
しばらくは彼の脅威を脱せられる。
安息は、気まぐれな王子さま次第だが。
「……なあ、律」
静かに呼びかける。
彼のことは敵だとばかり思っていた。
冬真の腹心の手下だと、ずっと警戒して敵視していた。
実際に何度も記憶を奪われ、そのたびに大雅は自分を見失った。利用されてきた。
けれど、その元凶である冬真が眠ったいまなら、軋轢も関係性もリセットできるかもしれない。
そうすれば冬真が目覚めたとしても、記憶操作を恐れる必要はなくなる。
律を取り込むことができれば────。



