放たれた何かが迫ってきた。
 反射的に飛び退くと、陽斗の背後の壁にドォンと直撃した。

 咄嗟に振り返れば、穴の空いた壁から煙が上がっている。よく見ると、石のようだ。



「陽斗ー……? 大丈夫? 何の音?」

 階下から母親の声がした。今の銃声のような音が聞こえたのだろう。

 少女は面倒そうにため息をつく。

「うるさいなぁ。先に殺っちゃおうかな」

 はっとした陽斗は少女に向き直った。

 このままでは母親にまで危険が及んでしまう。

「狙いは俺だろ!? 余所見してんなよな! ついてこられるならついてこい!」

 陽斗は少女に宣言すると瞬間移動した(、、、、、、)

 隙を見て、生前の琴音からコピーしていたのだった。

「ふぅーん……、面白いじゃん」



 陽斗が移動した先は河川敷だった。

 一瞬ここが何処なのか分からず戸惑った────コピー魔法による瞬間移動だと制限がかかり、思い通りの場所へ行けない────が、見知った場所で良かった。

 それに、ここであればそれほど人気(ひとけ)もないし、スペースもある。……戦闘向けだ。

 瞬間移動魔法の移動先の制約は、本来の術者である琴音の方によるのか、あるいは陽斗の方によるのか、それすらまだ確かめられていない。

 ……と、コツと背後で靴音がした。

 少女が現れたことを察した陽斗は、音の出処に向け火炎魔法を放った。

「きゃ……!」

 少女は小さく悲鳴を上げながら避ける。

 だが、避けきれず、市女笠の(しゃ)の裾がじりじりと黒く焦げた。彼女の脚も軽く火傷を負う。

「熱……っ! 痛ったー! 女の子に何すんの!」

「挑んできたのはそっちだろ。戦いに男も女も関係ねぇよ」

 少女の無茶な言い分を陽斗は一蹴した。

 すぐさま氷の剣を作り出し、切っ先を少女に向ける。

「お前は誰だ?」

「そんなの教える義理ないんだけどなー。ま、いいや。せっかくだし、冥土の土産に……」

 少女は紗を捲り上げた。依然としてフェイスベールはつけたままだが、強気な色の滲む瞳が顕になる。

「私は通称、霊媒師(れいばいし)

 眉を顰めた陽斗は首を捻った。

 霊媒師と言うと、除霊なんかのイメージが強い。確かに特殊な能力を持っているかもしれないが、何となく魔術師とは種類が異なっているように思える。

「霊媒師が魔法なんか使うのか?」

「だから“通称”なんだって」

 少女はうんざりとした様子で言った。

「私も他の三人(、、、、)も通称なの。つまり、ただの呼称! 私は“霊媒師”だけど、ガチの霊媒師じゃないんだよ。分かる?」

 侮ったように捲し立てられる。

 何となく理解出来た。“霊媒師”とは職業的なものを指すのではなく、彼女の呼び名だということだ。

(てか、他の三人って……)

 祈祷師という男もそこに含まれるのだろうか。いや、絶対にそうだ。

 彼女は祈祷師の一味なのだ。