放課後になると、大雅と奏汰、陽斗はともに帰路についた。
琴音を殺害した祈祷師や冬真の襲来に備えるため、一人になるべきではないと判断してのことだった。
陽斗は昨日退院し、今日から学校へ復帰したところだ。
「……でも、何か信じられないな。琴音ちゃんが亡くなったなんて」
目を伏せた奏汰はぽつりと呟いた。
実感が湧かないという意味でも、彼女が敗北したという意味でも、未だに信じられない。
琴音は瑠奈同様、行方不明という扱いになっていた。
うららが言っていたように、祈祷師が遺体を消したためだろう。
「やっぱ、あのとき止めるべきだった。つか、俺が行くべきだった」
うららの救出を安易に任せてしまったことを悔い、大雅は表情を歪める。
「お前が行ってたら、お前が殺されてたかもよ」
「それに、祈祷師なんて存在は知らなかったわけだし……」
陽斗と奏汰の言葉は尤もだが、だからと言って割り切れない。
もっと他に何かあったはずだ。こんな展開を生まないための、最善の選択が。
「何者なんだろうな? 何で狙われるんだろ?」
陽斗が首を傾げる。
何とも言えない。皆が一様に同じ疑問を抱いていることだろう。
「……ねぇ、桐生くんはこれからどうするの?」
「ん?」
「如月くんにも色々バレちゃったわけでしょ。学校も危険なんじゃない?」
奏汰の言葉に大雅は「んー」と唸った。
「確かにな。ま、でも全力で逃げるしかねぇ。学校でも顔合わせねぇようにするし」
「そこまでして通う必要あんの? 大雅って不良の割に真面目なとこあるよなー」
「……別に真面目なわけじゃねぇよ」
ただ、登校することへこだわるのは、自分を侮蔑するような教師たちへの当てつけだった。大雅の意地だ。
また、冬真たちに少しでも圧力をかけておきたいのだ。休むことを“逃げ”だと捉えられれば、彼らの士気を高めてしまう。
「それで言ったらお前らも危ねぇぞ。あいつらに俺らの仲間だってバレたら……」
「大丈夫! そうなったら俺らはすぐ休むし」
陽斗は得意気に笑い、ピースサインを作って見せる。
戦闘狂の彼でも、時に身を引く判断が大切であることは承知していた。
「そうだね。逆にそれまでは、下手に慎重になり過ぎない方がいいかも。かえって怪しまれそうだし」
「あ、俺らが魔術師ってことはバレてんの?」
「いや、今はまだ。でも俺が捕まって連れ戻されたらアウトだな」
現状、星ヶ丘高校に絞って言えば、冬真に報告したのは一年生の魔術師のみだ。二年生と三年生の魔術師についてはまだ精査していない。
だが、もしも大雅が引き戻された挙句、再び服従させられようものなら、それらを見ることを強いてくるに違いない。