ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜


 困惑したまま周囲を見回すと、血にまみれて倒れている大雅と傀儡の解けた陽斗が目に入る。

 状況を察し、再び陽斗を傀儡にした。

「驚いたな、大雅。まさか自滅覚悟で僕を操作するなんて……」

 すっかり失念(しつねん)していた。
 テレパシー魔法の応用、そのひとつとして彼も人を操ることができたのだ。

 常に対策していて正解だった。
 大雅を追い詰めるとき、冬真は必ずほかに傀儡を作っていた。

「ぜんぶ無駄だったみたいだね。最後の抵抗お疲れさま。これからは、晴れて僕の操り人形だ」

 がっ、と冬真は彼の髪をわし掴み、強引に頭をもたげさせた。

「!」

 その拍子に大雅は意識を取り戻す。

 しかし、しばらくはもう能力を使えない。
 使えたところで同じ手は通用しないだろう。

(……くそ……)

 荒い呼吸を繰り返す彼を見下ろし、満足そうに冬真は笑う。

 ────そのとき。

「ぎりぎり間に合ったみたい」

「よかった……」

 どこからか、囁くような声が聞こえた。

「誰かいるの?」

 あたりを見回した冬真は戸惑いに明け暮れる。
 見たところ誰の姿もない。

「よっ、と」

 ふいに、何もない虚空(こくう)から突如として男子生徒が姿を現した。

 その事実も()ることながら、見覚えのあるその顔にはっと驚く。

「きみは……!」

 路上での邂逅(かいこう)のあと、律を眠らせた張本人だった。
 睡眠魔法を有すると思われる、月ノ池高校の魔術師。

 さっと怒りを滲ませた冬真は、大雅を離して立ち上がる。

 一方、得体の知れない彼はなだめるように笑った。

「まあまあ落ち着いて。怒るのも当然だろうけどさ、俺も身を守っただけなんだって。彼のことは許してよ」

 眠りに落ちている律を示して言う。

「あと俺は“きみ”じゃなくて、八雲至(やくもいたる)ね。よろしくー」

 暢気にもあくびをしながら、律のもとへ歩み寄った。
 まるで緊張感のない、飄々(ひょうひょう)とした態度だ。

「……何する気? そいつは僕のだぞ」

「分かってるよ。きみもお困りだろうから、起こしてあげようかなと思って」

 大雅は表情を硬くする。味方、ではないのかもしれない。

 いま律を起こされたら、大雅の身が危うい。
 至は冬真たちの側につくつもりなのだろうか。

 動揺する大雅に対し、冬真に余裕が戻った。

「そういうことね。いや、本当に困ってたよ……。“敵じゃない”ときみは言ったのに、早とちりして動いた律も悪かった。きみが異能を解いてくれるなら、この件は水に流そう」

 至は直接答えることなく、ふっと小さく笑った。
 ()とも(いな)とも言わない。

「……ところで、いまから俺がすることに嫉妬しないでね」

 律の前にそっと屈んだ。

 言葉の意味が分からず、冬真は「?」と不思議そうな表情を浮かべる。大雅も眉を寄せた。

「知ってるだろ? 眠り姫を目覚めさせる方法」

 そう言った至は眠る律の顎をすくい上げ、顔を傾けてそのまま口づけた。

 思わぬ行動に、冬真も大雅も目を見張る。
 彼はいったい何をしているのだろう。