大雅は戸惑いに飲み込まれないよう、平静を装った。

 何が起きたのかと言えばそれがすべてなのだろうが、まるで理解は出来なかった。

『……桐生さん』

 そんな大雅に、うららはテレパシーで語りかけた。

「うらら! お前……」

『わたくしのせいで瀬名さんが殺されてしまった。わたくしのせいで────』

「おい、落ち着け。何があったか見てたのか?」

 うららの声は震えていた。直接発声はしていないはずだが、余程のことがあったに違いない。

『最期を直接見たわけではありませんの。わたくし、あの後再び術にかけられてしまって……。発言しないこと、一定の距離を置いてついて行くことを命じられましたわ。それで、突然あの場に祈祷師という男が現れて』

 要領を得ないながら、うららは必死で言葉を紡いだ。

 テレパシーさえ禁じられる前に、起きた出来事は出来るだけ詳細に伝えたかった。

『瀬名さんが捕まったのだけれど、何とか旧校舎内に逃げて────。でも、その後……聞こえましたの。銃みたいな音や“死体”なんていう言葉が』

 やはりそうだ。やはり、琴音に直接手を下したのは祈祷師だ。

『祈祷師は瀬名さんの遺体を消すと、自分自身も消えた……。それは見ましたわ』

消えた(、、、)?」

『ええ。それと、瀬名さんを殺めたのは祈祷師だから、彼女の魔法が如月さんたちに渡ったということはありませんわ。天界とやらにいる祈祷師のリーダーの元へ還った、と……』

 大雅は険しい表情を浮かべた。

 仲間の死を悼む間もなく、分からないことばかりが増えていく。

「“天界”とか“祈祷師”とか、もうわけ分かんねぇよ」

 うららの話を伝えると、蓮も困惑を顕にした。

 祈祷師などという異能者は、魔術師の一種なのだろうか。あるいは、まったくの別物なのだろうか。

 また、天界とは何を指すのだろう?

 何故、自分たちが狙われるのだろう?

 何故、祈祷師は冬真たちに手を貸すのだろう……?

 分からない。分からないが、立ち止まってはいられない。得体の知れない脅威が迫ってきているのだ。

 ────キーンコーン……。
 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

 様々な感情が入り乱れ、頭の中がぐちゃぐちゃに掻き混ぜられる。何の整理もつかない中、現実感だけは歩みを止めない。

「……戻ろうぜ」

 青白い顔で立ち竦む小春を気にかけながら、蓮は促した。



 教室へ戻り、席につく。どっと身体が重くなった。

 思わず瞑目すると、琴音との記憶が蘇ってくる。

 当初、自分を瑠奈から救ってくれた彼女は、仲間として常にゲームにおける指標となってくれていた。

 彼女がいたから、この嘘のような現実と向き合えた。理想を見つけられた。

『────助けてくれてありがとう、小春』

 ……やっと、彼女と理解し合えたところだったのに、もう二度と会うことは出来ない。声も聞けない。

 主を失った琴音の机を見た。鞄やペンケースが置かれたままだ。

 よくやく、彼女の死という事実が、認識として深く浸透してきた。

 悲しみ、怒り、驚き、やるせなさ。あらゆる感情が混濁し、涙に変わる。喉の奥が締め付けられるような痛みを飲み込み、必死で涙を堪えた。