◇
大雅の返答に満足した冬真はいっそう笑みを深めた。
それに気づいた律はわけを尋ねようとしてやめた。
声が出る、出ないに関わらずどうせ答えない。
「あれは……?」
ふいにうららが声を上げた。
奥まった路地に誰かが座り込んでいる。まるで、糸の切れた人形のように。
訝しみながら歩み寄って、息をのむほど驚いた。
「遺体……」
律が呟く。
血と傷にまみれた男子高校生の遺体だった。星ヶ丘高校の制服に身を包んでいる。
うららは、彼に見覚えがあった。
「甲斐さん……」
間違いなく、この遺体は蓮たちの仲間の陽斗だ。
大雅からのテレパシーでその死を聞いてはいたものの、まさか遺体に遭遇するとは思わなかった。
「仲間なのか?」
「同盟を組んだ方々のね。いったい誰に────」
そこまで言いかけて、はっとひらめく。
「もしかして、あなたたちが祈祷師に殺らせたんですの?」
「いや、ちがう。あの男とは、瀬名の件以降切れている。会ってもいないし居場所も知らない」
「それなら誰の仕業だと言うの? 祈祷師が単独で……? 何のために────」
うろたえる彼女に、律は息をついた。
「忘れていないか? これはそもそもバトルロワイヤルだ。敵は魔術師。戦って死んだんじゃないのか」
思わず陽斗の傷跡を見た。
火傷や銃創など、複数の異能が使われた痕跡が見受けられる。
やはり、祈祷師の仕業ではないのだろうか。
「……別に、あの狐男を庇うわけではないが」
律はそう前置きして切り出す。
「あの男にはリーダーがいるとか。しかも“ボクら”と言っていた。ということは、祈祷師には仲間が複数いるということじゃないか」
「それは……」
「もちろん、祈祷師自身が手を下した可能性も十二分にあるが」
いずれにしても、陽斗は祈祷師かその仲間に殺害された可能性が高いと見るのが妥当だろう。
ふいに冬真は陽斗の前に屈み込んだ。そっとその肩に触れる。
手を離すと同時に、彼がのそりと起き上がった。
「え……っ!?」
うららは息をのみ、思わずあとずさる。
死体まで操ることができるなんて────。
「いいこと思いついちゃった」
陽斗を介して冬真は言った。楽しげな声色だ。
それでも、青白い陽斗の顔は表情がまったく動かない。
いっそう不気味なものだった。
「……うわ、驚いたな。まさにゾンビ?」
唐突に背後から声がした。
振り返ると、見慣れない男子高校生がいた。
“驚いた”なんて言いながらも怯んだ様子はまるでない。
その余裕から、魔術師だろうことが窺える。
真っ先に律が警戒を滲ませた。
「その制服は……月ノ池か?」
「おお、正解。きみたちは……みんなばらばらみたいだね。魔術師同士のお仲間さんといったところかな」
彼は顎に手を当て、首を傾げる。
魔術師であることを隠すつもりは一切ないようだ。
「仲間じゃない」
「えー、そうなの? 別に警戒しなくていいよ。きみらをどうこうしようってわけじゃないから。ここで見たことは他言しないし」
「……信用できないな、忘れてもらわない限り」
大雅の返答に満足した冬真はいっそう笑みを深めた。
それに気づいた律はわけを尋ねようとしてやめた。
声が出る、出ないに関わらずどうせ答えない。
「あれは……?」
ふいにうららが声を上げた。
奥まった路地に誰かが座り込んでいる。まるで、糸の切れた人形のように。
訝しみながら歩み寄って、息をのむほど驚いた。
「遺体……」
律が呟く。
血と傷にまみれた男子高校生の遺体だった。星ヶ丘高校の制服に身を包んでいる。
うららは、彼に見覚えがあった。
「甲斐さん……」
間違いなく、この遺体は蓮たちの仲間の陽斗だ。
大雅からのテレパシーでその死を聞いてはいたものの、まさか遺体に遭遇するとは思わなかった。
「仲間なのか?」
「同盟を組んだ方々のね。いったい誰に────」
そこまで言いかけて、はっとひらめく。
「もしかして、あなたたちが祈祷師に殺らせたんですの?」
「いや、ちがう。あの男とは、瀬名の件以降切れている。会ってもいないし居場所も知らない」
「それなら誰の仕業だと言うの? 祈祷師が単独で……? 何のために────」
うろたえる彼女に、律は息をついた。
「忘れていないか? これはそもそもバトルロワイヤルだ。敵は魔術師。戦って死んだんじゃないのか」
思わず陽斗の傷跡を見た。
火傷や銃創など、複数の異能が使われた痕跡が見受けられる。
やはり、祈祷師の仕業ではないのだろうか。
「……別に、あの狐男を庇うわけではないが」
律はそう前置きして切り出す。
「あの男にはリーダーがいるとか。しかも“ボクら”と言っていた。ということは、祈祷師には仲間が複数いるということじゃないか」
「それは……」
「もちろん、祈祷師自身が手を下した可能性も十二分にあるが」
いずれにしても、陽斗は祈祷師かその仲間に殺害された可能性が高いと見るのが妥当だろう。
ふいに冬真は陽斗の前に屈み込んだ。そっとその肩に触れる。
手を離すと同時に、彼がのそりと起き上がった。
「え……っ!?」
うららは息をのみ、思わずあとずさる。
死体まで操ることができるなんて────。
「いいこと思いついちゃった」
陽斗を介して冬真は言った。楽しげな声色だ。
それでも、青白い陽斗の顔は表情がまったく動かない。
いっそう不気味なものだった。
「……うわ、驚いたな。まさにゾンビ?」
唐突に背後から声がした。
振り返ると、見慣れない男子高校生がいた。
“驚いた”なんて言いながらも怯んだ様子はまるでない。
その余裕から、魔術師だろうことが窺える。
真っ先に律が警戒を滲ませた。
「その制服は……月ノ池か?」
「おお、正解。きみたちは……みんなばらばらみたいだね。魔術師同士のお仲間さんといったところかな」
彼は顎に手を当て、首を傾げる。
魔術師であることを隠すつもりは一切ないようだ。
「仲間じゃない」
「えー、そうなの? 別に警戒しなくていいよ。きみらをどうこうしようってわけじゃないから。ここで見たことは他言しないし」
「……信用できないな、忘れてもらわない限り」



