スリットの入ったタイトなドレスに身を包む彼女は、手にしていた扇子を閉じた。
蓮の反応を待たずして手をかざす。
てのひらから飛び出した水が、まるで意思を持った大蛇のように迫ってくる。
蓮は舌打ちし、すぐにきびすを返すと反対方向へ駆け出した。
角を曲がり、適当な教室へ飛び込む。
素早く扉を閉めて押さえると、追尾してきていた水がバシャッとぶつかって弾けた。
「何なんだよ……!」
蓮が火炎魔法の持ち主であるということが、既にバレているのかもしれない。
水魔法を繰り出されたのでは、ほとんど無力も同然だ。
コツ、コツ、と靴音が近づいてくる。
警戒を深め、扉を押さえる手に力を込めた。
「おまえも祈祷師の仲間なのかよ」
「まあね。あたしは通称、呪術師だ」
「おまえらは何者なんだ?」
「そうだね……“天界”の住人、とでも言っとこうか」
ふっ、と思わず蓮は鼻で笑った。
「天界? 魔界の間違いだろ」
その瞬間、廊下側から衝撃波が飛んできた。
勢いよく吹き飛ばされた扉が蓮を覆うように落ちてくる。
とっさに床を転がって避けるも、一瞬の怯みを悟った呪術師は、ここぞとばかりに水弾を放った。
「……っ」
慌てて身を翻す。
何とか急所は避けたものの、脇腹に一発食らってしまった。
水とはいえ、威力は本物の銃弾と変わりない。
脇腹を押さえた蓮は顔を歪め、ふらりとたたらを踏んだ。
「痛……っ。くそ!」
「ふふ、どう楽観視してもあんたはあたしに敵わないよ。前に交戦したような紛いものの水魔法とはわけがちがう。あれにも勝てないあんたには、なす術なしね」
陽斗のことだ。そこまで把握されているとは、本当に得体が知れない。
「……なあ、何で俺たちなんだよ?」
苦しげな荒い呼吸の中、彼女を睨めつけた。
銃創からぼたぼたととめどなく血が滴り落ちていく。
「それは……このゲームの対象の話? それとも、あたしらがあんたや仲間を狙う理由を聞きたいのかい?」
「どっちもだ」



