ひらけた空間には遮蔽になるようなものもなく、身を屈めて走り抜けていく。
雨のような雫が散って降り注いだ。
「うっ」
ズドォン! と、左脚に強い衝撃が走る。
足をとられるようにつんのめって、そのまま地面を転がった。
「いってぇ……くはないけど! くっそ」
脚からはどくどくと血があふれて止まらない。
被弾の衝撃はかなり大きく、痛覚があったら痛みでのたうち回っていたかもしれないと思った。
「!」
倒れ込んだ陽斗の真横を何かが掠めていく。
はっと顔を上げると、霊媒師がこちらを見下ろしていた。
「水鉄砲、これ便利だよねー」
そう言うと再び銃のように手を構え、その指先を陽斗に向ける。
とっさに起き上がろうとしたものの、身動きが取れなかった。
「な……っ」
硬直魔法かとも思ったけれど、ちがった。
足首と肘のあたりに、杭のように打ち込まれたつららが突き刺さっている。
いまになってひんやりと冷気を感じた。ぽたぽたと血が滴る。
先ほど掠めたのはこれだったのかもしれない。
動揺しているうちに、鋭いつららが再び降ってきた。
地面についていた左右のてのひらを貫通して打ち込まれる。
「てめぇ……!」
「あははっ! 思い知った? 所詮、紛いものは紛いものなの」
高笑いした霊媒師はわざとらしく眉を下げる。
「あーあ、可哀想に……。もう逃げることも戦うこともできないね」
「……っ」
「いま楽にしてあげるから。さっさと死ね」
ふと笑みを消し、構えた指先から水弾を撃ち込む。
激しい銃声とともに飛沫が舞うと、ほどなくして完全な静寂に包まれた。
◇
──カンカンカン……。
けたたましい音を立てながら踏切のランプが点滅する。
遮断桿が下りてきた。
「小春、早く」
歩調を速めた蓮についていこうとしたものの、ぱん! とふいに手を打ち鳴らすような音が聞こえて足が止まる。
振り向こうとすると、突如として何かに捕まった。
「!」
がっしりと首に腕を回され、身動きが取れなくなる。
踏切を渡りきった蓮とは分断されてしまった。
「誰……!? 離して!」
引き剥がそうともがいても、力では一切敵わなかった。
訴えかける声は、迫ってくる電車の走行音にかき消される。
強い風が吹き上がり、電車が通過していく。
「ふふ、捕まえたー」
耳元で聞き慣れない声がして、あまりの恐怖から心臓が縮み上がった。
強張った身体が震える。
そのとき、目の前を走っていた電車が途切れた。
向こう側に蓮の姿が見えたかと思うと、バーが上がっていく。
小春は縋るように叫んだ。
「蓮……!!」



