「きゃ……!」
小さな悲鳴が響く。
避けきれずに市女笠の紗の裾がじりじりと黒く焦げた。
炎の掠めた脚が赤くただれる。
「熱……っ! 痛ったー! 女の子に何すんの!」
「挑んできたのはそっちだろ。戦いに男も女も関係ねぇよ」
少女の無茶な言い分を一蹴した。
すぐさま氷の剣を握り、鋭い切っ先を少女に向ける。
「おまえは誰だ?」
「そんなの教える義理ないんだけどなー。ま、いいや。せっかくだし、冥土の土産に……」
少女は紗をめくり上げた。
依然としてフェイスベールはつけたままだけれど、強気な色の滲む双眸があらわになる。
「わたしは通称、霊媒師」
眉をひそめた陽斗は首を捻った。
「霊媒師が魔法みたいな異能なんか使うのか?」
「だから“通称”なんだって。つまり、ただの呼び名に過ぎないの。ほかの3人もね」
「ほかの3人って……」
祈祷師という男もそこに含まれるのだろうか。いや、絶対にそうだ。
彼女は祈祷師の一味なのだ。
陽斗が思い至ると同時に、みるみる足元が渦を巻いた。
いつの間にか水が足を浸している。
轟々とうねり、水柱が勢いよく突き上がった。
何とか飛び退いて避ける。
(何なんだよ、こいつ……)
霊媒師や祈祷師といった存在は、魔術師とは別ものだと捉えていいのだろうか。
そうでなければ、ほかの魔術師と同じ能力を使っている点に説明がつかない。
────しかし、ともかくそんな疑問はあと回しだ。
いまは霊媒師を倒すことに集中しなければ。
彼女が祈祷師と同類なら、自分を殺しにきたにちがいないのだから。
氷剣を握り直した陽斗は俊敏な動きで距離を詰め、その肩目がけて突き刺した。
「……っ」
じわ、と真っ白な服が赤く染まっていく。
怯んだ霊媒師は痛みに悶え、顔を歪めた。
「なんだ。えらそーにしてるけど、普通に攻撃当たるし……思ったより弱い?」
率直な感想を口にした陽斗だったが、霊媒師にとっては侮辱に等しかった。
「うっざ、何それ……。調子乗んないでよ」
霊媒師がその手に炎をまとわせると、瞬く間に氷剣が溶けていく。
その炎が陽斗の腕を伝ってきた。
「あつっ」
皮膚の焼ける独特の異臭がする。火傷を負ったものの、当然ながら痛みはない。
その隙に彼女は手を銃の形に構え、機関銃のごとく水弾を連射してきた。
「うわ……!」



