「そんじゃ、また明日な!」
底抜けに明るい笑顔で、ふたりに手を振る。
「ああ、じゃあな」
「またね」
────帰宅した陽斗は明かりの漏れるキッチンに「ただいまー」と声をかけつつ、自室のある2階へ上がる。
夕飯まで最近ハマっているシューティングゲームでもやろうか。
そんなことを考えながらドアを開けると、異様な光景が目に飛び込んでくる。
「ん……?」
漫画や脱ぎ捨てた服で散らかった部屋の中央に、傘をさした少女が立っていた。
市女笠を被っている上にフェイスベールをつけていて、顔の全貌は窺えない。
膝丈ほどの漢服風の衣装も、何もかも雪のように真っ白だ。
明らかにこの空間から浮いていて異質な存在。
困惑していると、少女がゆったりとこちらを向いた。
「誰だ、おまえ。どうやって入ったんだよ? 異能か?」
一瞬、祈祷師とやらが現れたのかと思った。しかし、祈祷師は男だと聞いている。
ただ、彼女も彼女でただ者ではないだろう。
危機感を煽る胸騒ぎがする。
少女は不敵に微笑んだ。
「よく分かってるじゃん。その通り、異能ですよー」
くるくると傘を回して弄ぶ。
いったい、何の異能だと言うのだろう。
思いつくのは“瞬間移動”だけれど、それは────。
「ねぇ、わたしが何しにきたのかももう分かってるでしょ? いまさら喚いたりしないでよね。身から出た錆なんだから」
少女は言いながら、右手を銃のように構えた。
その人差し指の先が陽斗に向けられる。
「!」
放たれた何かが迫ってきた。
反射的に飛び退くと、背後の壁に勢いよく撃ち込まれる。
穴の空いた壁からは煙が上がっていた。
「……陽斗? 大丈夫なの? 何の音?」
階下から母親の声がした。いまの銃声のような衝撃音が聞こえたのだろう。
少女は面倒そうにため息をつく。
「うるさいなぁ。先に殺っちゃおうかな」
はっとした陽斗は少女に向き直った。
このままでは母親にまで危険が及びかねない。
「狙いは俺だろ!? よそ見してんなよな! ついてこられるならついてこい!」
そう言うと、陽斗は瞬間移動した。
隙を見て、生前の琴音からコピーしていたのだった。
「ふぅーん……面白いじゃん」
目の前の景色が移り変わり、陽斗自身も戸惑う。
コピー魔法による瞬間移動だと制限がかかるようで、思い通りの場所へ飛ぶことができないのだ。
あたりを見回すと、どうやら河川敷のようだった。
移動先の制約は、本来の術者である琴音の方によるのか、あるいは陽斗の方によるのか、どちらなのだろう。
そんなことを考えたとき、ふっと風がそよいで、肌が気配を感じ取った。
少女が現れたことを悟り、手に炎を宿すと音の出どころに向けて放った。



