言われてみれば確かにその通りだ。
冬真に狙われないように硬直魔法を持っていることを隠していたのだとしても、冬真本人に明かした以上は使わない理由がない。
────もとより祈祷師は、全員の異能を把握しているのだが。
「…………」
冬真はうなだれる。……やられた。
それなら、別に異能で殺さずともよかったのだ。
最初にナイフで刺していれば。
とはいえ硬直魔法を持っていないのなら、冬真が殺すことにこだわる必要もなかった。
「……この場合、こいつの異能はどうなる?」
律は祈祷師に尋ねた。
「奪えない、と言っていたが」
「コトネンの持ってた瞬間移動魔法は、即座に“天界”へ還るよ。天界っていうか、ボクらのリーダーのもとへ」
祈祷師は言いながら、倒れた彼女の傍らに腰を下ろして胡座をかく。
「そのほかにもー、魔術師が死んでから異能を奪われることなく5分経過したときとか、さっき言ってたように自殺したときにも、おんなじように異能は還ってく」
「……天界? リーダーとは誰だ?」
「はいはい、質問タイム終わりー」
さらなる疑問が募ったものの、祈祷師に答える気はないようだ。
「そんじゃ、この死体どうする? 欲しいならあげるけど」
「誰がいるか。異能も奪えないんだろ」
祈祷師の話からして、琴音の異能は既に天界とやらへ還ったあとなのだろう。
「じゃ、せめてこれあげるよ」
祈祷師は琴音の眼帯を外した。
左目には眼球がなく、眼窩に闇のような空洞が広がっていた。
「おい……」
戸惑う律をよそに、祈祷師は眼帯を差し出す。
「はい、どーぞ。戦利品だよ」
拒絶するかと思ったものの、冬真はそれを受け取った。
何を考えているのか律にも分からない。
「じゃ、いらないということなんで消しまーす。バイバイ、コトネン」
祈祷師が遺体に手をかざした瞬間、あたりに閃光が走った。
瞬く間に琴音の身体が透けて消え、血溜まりだけがその場に残る。
「ボクもそろそろお暇しよう。また何かあったらヨロシクね、トーマっち。リッちゃんも」
「やめろ、その変な呼び方」
思わず律が反発するも、聞き終える前に祈祷師は姿を消した。
「もう二度と手は借りないからな」
彼がいた空間に向かって言う。
とことん掴みどころがなく、ちゃらけたように見えて残酷な男。
強力なのは確かだが、いつ裏切られるか分かったものではなかった。
「…………」
しばらく眼帯を眺めていた冬真は、それをポケットにしまい込む。
血溜まりを見下ろすと、口を結んで背を向けた。



