「……っ!」
冬真はなおも祈祷師に訴えかけていた。何がなんでも、琴音は自分の手で殺さなければ。
すっかり冷静さを欠いている彼は、うららに命令したり律を傀儡にしたりすることなど頭にないらしく、ただ意地になっていた。
祈祷師は息をつき、ふっと笑みを消す。
「邪魔しないでくれる?」
これまでの飄々とした態度から一転、苛立ったような冷たい声色だった。
「ボクは別にあいつらが死にさえすれば、手を下したのが誰かなんてどーでもいいの」
“あいつら”? 琴音は怪訝そうに眉を寄せる。
再び笑みをたたえた祈祷師は、冬真に向き直った。
「キミには機会をあげただろ。でも、くだらない執着でそれを無駄にした。もうキミに用はない。下がってろ」
青白い光が明滅する。
再び電光の走るてのひらを向けられ、きびすを返した琴音は逃げるように旧校舎へ駆け込んだ。
“立ち入り禁止”とあったものの、気にしてはいられない。
(“あいつら”って……)
そこに自分が含まれていることは分かる。あとは、もしや仲間たちのことだろうか。
雑然とした廊下を駆け抜けながら、顳顬に触れる。
「桐生! みんなにも伝えて。わたしたちを狙ってる奴がいる。如月たちのほかに、祈祷師とかいう────」
突如として、半狐面が目に飛び込んできた。
瞬間移動で目の前に現れたことに戸惑う間もなく、彼は手を銃の形に構える。
「ばーん!」
祈祷師の指先から眩い光線が放たれる。
その光弾が一瞬のうちに琴音の額を貫いた。
『琴音……? おい、琴音!』
大雅は呼びかけたが、間もなくテレパシーが切断された。
どさ、と琴音は膝からその場に崩れ落ち、うつ伏せに倒れる。
即死だった。
額に空いた風穴から、思い出したようにあとからどくどくと血があふれ出す。
「おい、おまえ!」
追いついた律が咎めるように祈祷師を呼ぶ。
駆け寄って屈み、琴音の息を確かめた冬真は、その死を悟ると憤然と立ち上がる。
祈祷師の胸ぐらを勢いよく掴んだ。
「もう、なーに? お望み通り消してあげたじゃんか」
「……っ」
「それともまさか……トーマっちともあろう者が、コトネンのはったりに踊らされてたりしてー!」
困惑しながら彼を離した。律も戸惑う。
「はったりだと?」
「え、ふたりとも本気でコトネンが硬直魔法持ってると思ってたの? ありゃー、案外ピュアなんだね、ぷぷぷ」
「なに……?」
「持ってたらとっくに使ってるって。ここで明かしたあとは、使えない理由がないんだからさ」



