「ザンネンだけど自殺じゃ異能は奪えないんよね~。異能で殺すしかない。ま、唯一の例外がそこにいるウララたんの磁力魔法だけど……硬直魔法を奪いたいのはトーマっちだもんね?」
ほっとすると同時に、訝しむ気持ちが膨らむ。
この男は何者なのだろう。
紗夜たちですら知らないルールまで把握している。
「……っ」
冬真は苛立ったようにくしゃりと髪をかき混ぜ、ナイフを投げ捨てた。
「如月……」
律の顔に戸惑いの色が滲む。
予想外の展開に、彼もどうすればいいのか決めかねているようだ。
ただひとり、祈祷師は「ふふふ」と愉快そうに笑って一歩踏み出した。
「トーマっちが戦意喪失しちゃったんで、代わりにボクが殺るね。ボクはキミから異能を奪えないし、キミもボクから異能を奪えない。だからボクはキミがどんな異能を持ってようがカンケーなーし!」
祈祷師はそう言うと、手の内に雷を蓄えた。バチバチと青白いスパークが徐々に大きくなる。
琴音ははっとした。あれは────。
「どーやら、この異能に思い入れがあるみたいだからね……。これで殺ってあげるよ」
興がるように笑みを深めた祈祷師が琴音にてのひらを向けると、光線のような雷撃が放たれる。
それを見きり、飛び退いて避けた。
シュウゥ……と、黒く染まった地面から煙が上り、焦げくさいにおいが鼻につく。
「あちゃー、もう動けるか。20秒って短いなぁ。そんじゃ、もう1回────」
再び何らかの攻撃を繰り出そうとした祈祷師の腕を、冬真はガッと掴んで制した。
鋭い視線で祈祷師を睨みつける。
声が出ないため言葉こそないものの、言わんとすることは理解できた。
「おいおい、トーマっち。キミにはカノジョを殺す異能がない。諦めてボクに────」
そこまで言ったとき、ふいに琴音が目の前に現れた。
瓦礫の山から拾ったであろう鉄棒が振り上げられる。
祈祷師は身を逸らして避け、そばにいた冬真も律に引っ張られたお陰で難を逃れた。
「……鼬ごっこはもう十分。わたしがここであなたたちを葬る」
鉄棒を構え、決然と告げる。
瞬間移動で逃げるつもりはもうなかった。
彼らを気絶させて拘束しておく。
そして、うららの能力で異能を奪う。
それが、この状況で信念を曲げずに冬真たちを破る唯一の方法だろう。



