その声に振り返ると、冬真と律が佇んでいた。
「……やっぱり罠だったのね。わたしたちをおびき寄せるための」
さして驚くこともなく言った。
罠である以上、彼らが待ち構えていることくらいは想定内だった。
「その通り。だが、甘いな」
律は頷きつつ、冷淡な眼差しをやった。
「“わたしたち”? ちがう……おまえだ、瀬名琴音。これはおまえへの誘い水だ」
「……何ですって?」
警戒を深めて眉を寄せる。しかし、何てことはないはずだ。
危機を感じたら瞬間移動するか、もしくは彼らを移動させればいいだけ。
「百合園さんは?」
拘束は解かれているようだけれど、どこへ行ったのだろう。
ふいに冬真が倉庫裏に消えると、うららの両肩に手を添えながら現れた。
彼女はもの言いたげな顔で琴音を見つめるも、大人しく冬真に従っている。
どうやら再び絶対服従の術にかけられてしまったようだ。
今度は発言すら禁じられたのかもしれない。
「……電話で話してたときから操ってたのね」
「いや。その段階では、確かに術は解けていた。通話が切れてからだ」
彼らは最初から倉庫の近くに潜んでいたわけだ。
大雅が現れても、どのみち危なかった。
「それで? 百合園さんを使って、わたしの異能を奪うつもり?」
「それも考えたが現実的じゃない。百合園に術がかかっていると気づいてるおまえが、30秒間も大人しくしているわけがない」
「当然でしょ。……なら、記憶でも書き換えてみる? それとも、わたしのことも絶対服従させて殺す?」
挑発するように言う傍ら、懸命に頭を働かせた。
自分ひとりが逃げる分には何とかなる。けれど、うららはどうすればいいだろう。
ここに置いて帰れば、今度こそ永遠に冬真から解放されないような気がした。
律は嘲るように笑う。
「どれもはずれだ。おまえは殺すがな」
「!」
その瞬間、琴音は背後から何者かに捕らわれた。
首にしっかりと腕を回され、振り返れない。
身長や腕の造形からして、男だろうことは窺える。
突然の出来事だったものの、あくまで冷静な琴音は思いきり肘を引き、相手のみぞおちに食らわせようとした。
しかし、そのまま身体が動かなくなる。金縛りに遭ったような状態だ。
(硬直魔法……!?)
そう思い至ると同時に、頭の中にその持ち主の顔が浮かぶ。
まさか、背後にいるのは奏汰なのだろうか。



