実際に大雅が動き出したように、このままいけばうららを助け出すことができるだろう。
こちらにとっては好都合だけれど、冬真がなぜそんな隙を与えるのか分からない。
「確かにな。普通なら記憶も奪うはずだもんな」
うららの異能からしても、彼女のことは手下にした方が冬真には都合がいいだろう。人質ではなく、完全な手下に。
そのために記憶を奪い、書き換えてしまうのが自然な判断のように思える。
そうでなければ、こうして仲間たちに連絡を取られてしまう。
「その通りね……。監禁してスマホを遠ざけたとはいえ、百合園さんなら手に取れることは分かってたはず。なのに取り上げなかった。わざと、わたしたちと連絡がとれるようにしたんだわ」
「まさか……」
「これは、わたしたちを誘い込むための罠だわ」
琴音は顳顬に人差し指を当て、大雅に語りかける。
「桐生、百合園さんのことはわたしに任せて。いまから向かって瞬間移動させるわ。旧校舎の備品倉庫とやらに行ってみる」
『……マジ? でも、飛べんの?』
「校舎自体は通ったことがあるから行けるわ」
旧校舎には行ったことがなくとも、ひと目見れば分かるはずだ。
琴音がやってくれるのであれば、大雅が動くよりもさらにリスクが低くなるように思えた。
仮に冬真と遭遇したとしても、能力で逃げてしまえばいい。
『じゃあ、頼んでもいいか?』
「ええ、任せて」
琴音は顳顬から指を離した。
わたしたちを、とは言ったものの、正確には大雅を狙う罠だろうと踏んでいた。
星ヶ丘高校という隠し場所からして、真っ先に大雅が動くことは明白だ。
冬真たちの狙いが大雅なら、なおさら自分が動くしかない。
彼らの思い通りにはさせない。
「行ってくるわ。すぐ戻る」
小春の胸の内に蓄積するもやもやが消えないうちに、琴音は決然と告げた。
はっと顔を上げる。瞬間的にひらめいた。
違和感の正体────思いちがいをしていた。
彼らが誘い込みたいのは、ほかでもない琴音。
これは彼女への罠だ。
「待って……! だめ!」
それこそが冬真の狙いだ。
思わず引き止めたものの、目の前からは既に彼女の姿が消えていた。
◇
星ヶ丘高校の校舎前へ移動した琴音は、あたりを見回しつつ旧校舎へ向かう。
本校舎よりもかなり廃れた雰囲気で、ひと目見れば分かった。
フェンスが一部破れていて、乗り越えるまでもなくそこから入り込める。
備品倉庫とやらもすぐに見つかった。
旧校舎裏にぽつんと佇んでいて、なるほど監禁場所にぴったりだ。
「…………」
そっと歩み寄ってみる。
倉庫の扉は開いていて、うららの姿はない。
その代わり、床に蔦のようなものが落ちていた。あれで縛られていたのだろうか。
冬真の手下の異能を借りただろう。
都合のいいときに呼び出しては、彼または彼女の異能を我がものにしているというわけだ。
「────よく来たな、瀬名琴音」



