「本当だ。うららちゃんに連絡────」
とってみよう、と言い終える前に、うらら本人から電話がかかってくる。
『申し訳ないですわ!!』
開口一番、彼女は謝罪した。澄んだ声が響く。
「大丈夫なの? 怪我とかしてない?」
「いまどこにいるんだよ」
続けざまに問うと、うららは「ええ」と頷いた。
『無事は無事ですけれど、どこかと聞かれれば……分かりませんわ』
3人はそれぞれ顔を見合わせた。
うららはまだ冬真たちの手中にあるのだろう。
術は解けたけれど捕らわれたまま、という可能性が高い。
『え? 何ですの、桐生さん……記憶?』
ふいにうららがひとりで喋った。
彼女の意識が正常に戻ったことに気づいた大雅が、テレパシーでコンタクトを取ったのだろう。
『ちゃんとありますわよ。如月冬真の異能を奪うと息巻いて向かったけれど、返り討ちに遭ったという記憶が! 我ながら情けないですわ……』
どうやら記憶の方も、消去や改竄された形跡はなさそうだ。
ひとまず安堵の息をつくと、琴音が尋ねる。
「ねぇ、そこはどんな場所なの?」
『そう、ですわね……。備品倉庫みたいなところですわ』
「スマホは取られなかったの?」
『奪われたけれど、倉庫の中にあったから磁力で引き寄せましたわ』
遠ざけられてはいたものの、うららには手に取る手段があったわけだ。
『縛られてはいるけれど、ある程度の自由は効きますわ。ただ、大声を出しても誰も来ないし、外から音や声なんかもしませんわね……』
いったいどこなのだろう。
小春たちは困惑したように視線を交わす。
『俺が捜してみる』
唐突に、頭の中で大雅の声がした。
『まだ校舎内だとしたら、旧校舎の備品倉庫かも』
星ヶ丘高校の旧校舎は本校舎から少し離れたところにあり、かなり荒れたものだった。
使われていないのに取り壊しが行われないまま年月が過ぎ、瓦礫やガラスの破片が散乱している。
そのせいで誰も近づかない。
そういう意味では、うららの隠し場所としてうってつけだろう。
『じゃあ、わたくしはここから動かずにいますわ。どうかお願い、桐生さん』
『ああ、待ってろ』
そうして通話は切れた。
小春は改めてうららの無事にほっとしたものの、どこか釈然としない気持ちに陥った。
(何だか、あまりにも都合がいいような……)
何かが変だ。腑に落ちない。
表情を曇らせた小春に気づき、蓮は首を傾げた。
「どうかしたのか?」
「……あ、えっと」
うまく表せない違和感を、慎重に言葉を選びながら伝える。
「何か、何ていうか……うららちゃんが無事だったのはよかったけど、冬真くんはどういうつもりなんだろうって」



