朝のホームルームで、瑠奈が行方不明になったことが伝えられた。
冬真と関係があるのかは分からないものの、小春にはその身が案じられてならない。
1限目を終えた休み時間、紗夜からメッセージが届いた。
【話したいことがある。いつでもいいから連絡して】
教室を出て中庭へ向かうと、メッセージアプリから紗夜に電話をかける。
ほどなくして応答があった。
『もしもし……』
「あ、紗夜ちゃん? 話って?」
一拍置いて、紗夜は切り出す。
『別にあなた個人への特別な話ってわけじゃないの。ただ、何となく共有しておいた方がいいかなって』
「うん?」
『わたしたちは……小春たちに接触したのと同じような感じで、ほかの魔術師たちとも繋がりを持ってた』
「あ、うららちゃんも言ってたね。“伝手がある”って、そういうこと?」
『うん……。でも、昨晩から何人かと連絡がとれなくなった。何かあったんだと思う』
そう聞いて、自ずと今朝のホームルームを思い出す。
「……実は、瑠奈も昨日の夜から消息不明になっちゃって」
偶然かもしれないけれど、いまの話を踏まえると関係があるようにも思える。
『嫌な予感がする。……とは言っても、連絡がとれなくなってまだ一日も経ってない。思い過ごしだといいんだけど……』
紗夜は単調な語り口で続ける。
『とにかく、あなたたちも気をつけて。如月冬真の仕業にしろ、ほかの魔術師の仕業にしろ、手強いのは確かだから……』
「分かった。ありがとう、紗夜ちゃん」
────通話を終えると、廊下を歩きながら顳顬に指を添えた。
(大雅くん、瑠奈とテレパシー繋がってる?)
間を置くことなく、彼から声が返ってくる。
『いや、それがな……昨日、切断されたんだ。瑠奈が意図的に切断したのか、意識がないのかも分かんねぇ』
奇しくも、冬真についた嘘が現実となってしまったのだった。
昼休みになると、小春と蓮、琴音はいつものように屋上へ出た。
「何のつもりかしらね、瑠奈は。自分から消息を絶ったっていうなら、あいつの性分的に納得できるけど」
弱くて怖がりといった小心者の瑠奈のことだ。
冬真が恐ろしくて逃げ出したか、琴音と顔を合わせるのが怖くて逃げ出したか。
「何か関係ありそうだけどな。紗夜の知り合いの魔術師と連絡とれなくなったのと、瑠奈の件と。タイミング的にも」
蓮は険しい表情で言う。
ただ逃げただけならその方がいいと、小春は思った。
「……それはそうと、そろそろ百合園さんにかけられてた術が解ける頃じゃない?」
琴音の言葉にはっとした小春は、スマホで時刻を確かめる。
星ヶ丘高校の屋上で一悶着あってから、そろそろ半日が経つ頃だった。



