ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜

     ◇



 朝とも夕ともつかない空模様を、足元の水面が鏡のように映し出す。
 幻想的なその空間に、3つの人影があった。

 ふいに虚空が歪み、そこから半狐面の男が「よっと」と軽い調子で現れる。

「あ、帰ってきた」

 人影のうちのひとつ────市女笠(いちめがさ)を被ったフェイスベールの少女が、さした傘をくるりと一回転させた。

「ただいまぁ」

「“ただいま”じゃないよ、まったく……。収穫を挙げてないのはあんただけだよ。あたしらはみんな、()()()にちゃんと制裁を加えてきた」

 少女の隣に立っていた(あで)やかな雰囲気の女は、呆れたように腕を組んだ。

「だって逃げられちゃったんだもーん。どーせ、一日じゃ片づかないしのんびりやるよ」

「……まあ、それでこそあんただけど」

 彼の気楽な返答には、これ以上何を言っても響かないだろうと思わされた。

 しかし、不真面目ながらやるときはやる男だ。
 懇々(こんこん)と説教する必要もないだろう。

喫緊(きっきん)の問題は────」

 それまで沈黙を貫いていたもうひとりの男が口を開く。威厳や風格の滲む()で立ちだ。

 4人の中に明確な上下関係があるわけではなかったが、彼がリーダー的存在なのは暗黙(あんもく)の了解だった。

「胡桃沢瑠奈よりも水無瀬小春だろう。異能自体が強力というわけではないが、仲間を(つど)わせ、反旗(はんき)(ひるがえ)さんとしている」

 その言葉に少女は大きく頷いた。

「もはやまともにゲームに参加する気はないって感じー。ムカつく! せっかく楽しいバトロワの舞台を用意してやったってのにさ」

「それはただ、あんたの趣味ってだけだろ」

 女の言葉に「まあね」とにこやかに返した少女だったが、次の瞬間には笑みを消した。

「でもさ……こんなの面白くないじゃん。全員協力プレイ見せられて誰が満足できるの。ぬるい!」

 その点をルールに組み込まなかったのは失敗だったかもしれない。

 しかし、()()()()はうまく回ってきた。
 これほどスムーズに魔術師同士で協力関係が結ばれていく方が珍しいだろう。

 男は額に手を添え、ため息をついた。

「おまえのくだらない提案に乗ったばかりに……」

 少女はむっとする。いまに始まったことではないのに。

「まあまあ、陰陽師(おんみょうじ)の言うことはもっともだけど、いまさらそんなこと言ってたって仕方がないだろ」

 女がなだめるように言う。
 ゲームはもう始まっているのだ。

「異能を与えた人間たちにはじゃんじゃん殺し合ってもらわないと。決着がつかなかったら、目的果たせないもんね~」

「だから、あの愚か者どもを殺すんだろ。あんた、サボってんじゃないよ」

「はいはい、言われなくても〜」

 肩をすくめた彼は直後に顔をもたげ、愉快そうな笑みをたたえる。

「じゃ、今度はミナセコハルを狙うよ。カノジョ、お仲間さんがいっぱいいるからさー、一点狙いで確実に仕留めさせてもらおうか」

 ひとまず陰陽師の言葉に従い、制裁の対象を小春に切り替えようという意図だった。

 しかし、少女が「待って」と制する。

「それよりさ……そのお仲間とやらにちょこっとだけ思い知らせてやろうよ」