てのひらから彼までの軌道にある空気が揺らいでうねり、細い電光が空中に走る。
その光景に冬真は戸惑った。
(何だ、これ……)
ず、と靴裏が地面を滑っていく。
踏み留まろうにも、引っ張られる力の方が圧倒的に強い。
(もしかして、磁石的なことか?)
そう思い至ると同時に、ふっと身体が宙に浮かび上がった。ひやりとする。
たとえば地面と反発し合って浮遊しているなら、高度を上げた上で、今度は地面と引き合うように操られるのではないだろうか。
それは、冬真の身体が地面に叩きつけられることを意味する。
潰れて原型も留めないかもしれない。
「心配いりませんわ。あなたに危害を加えるつもりはないから」
そう言ったうららのもとへ、否応なしに急速に引き寄せられていった。
かざした手でそのまま冬真に触れると、その部分がぼんやりと淡い光を灯し始める。
大雅自身は初めて見る光景だが、あれは具現化した異能なのかもしれない。
「……!」
冬真は焦りを滲ませ、彼女から逃れようと身をよじった。
よく分からないけれど、触れられているとまずい────直感的にそれだけは分かる。
思わず顔を歪めながら、凄まじい磁力に抗い、うららの髪を乱暴に引っ掴んだ。
「痛……っ」
ハーフアップにまとめていた巻き髪が、ぐしゃりと崩れる。
つい冬真を離して頭を押さえるものの、彼は力を緩めなかった。
「大丈夫か。……おい、冬真!」
「なに? きみに僕を咎める権利があるの? 裏切り者の言葉を聞く必要なんてないでしょ」
寄越された冷酷な視線と正論に、大雅は口をつぐむほかなかった。
だからと言ってうららを傷つけていい理由にはならないものの、反論しても冬真には届かない。
「うらら! 弾き飛ばせ!」
「……っ」
言う通りにしようと、再び冬真に手をかざした。
今度は引き寄せるのではなく、反発させて弾き飛ばそうと磁力を宿す。
いち早く察知した冬真は、さらに強く彼女の髪を引っ張った。
怯んだ隙にもう一方の手でうららの手を払うと、その首を絞めるように強く掴む。
「うぅ……っ!」
「やめろ!」
とっさに踏み出した大雅の腕を、傀儡の律が掴んだ。
不意をつく形で強引に引き戻され、バランスを崩した隙に両手首を後ろでまとめ上げられる。
「おまえ……」
「動くなよ、大雅。一歩でも動いたらぜんぶリセットする」
いつもより低いトーンで律が言った。いや、実際には冬真の言葉だ。
大雅の記憶を盾にうららを殺す気かもしれない。
「ふざけんなよ、てめぇ。離せよ!」
「はあ? よく言うよ、先に仕掛けてきたのはそっちのくせに」
大雅が抗うたび、うららの首は強く締め上げられた。
彼の非道かつ巧妙なやり口は、ふたりの動きを完全に封じてしまった。



