「やましいことがないなら、僕の目を見てよ。一度でも逸らしたら記憶を消す」
動揺して思わずその双眸を見つめかけ、慌てて顔を背けた。
(くそ……。何でいつもこうなるんだよ)
どこかで失敗しただろうか。何か怪しまれるような挙動があっただろうか。
完璧に立ち回っていても、どうしていつも最終的に疑われるのだろう。
冬真は楽しそうに笑った。
「あはは、大雅って本当分かりやすいなぁ。そんな反応したら、やましいことがあるって認めたも同然だよ?」
そんなことは承知の上だ。
大雅はきつく拳を握り締める。
しかし、あのまま大人しく冬真と目を合わせたら、結局は記憶を改竄されて駒になるだけ。冬真はそういう人間だ。
疑わしきは罰するつもりなら、逃げる以外に選択肢がない。
「うるせぇ……。だったら何だってんだよ。俺のこと殺すか?」
「へぇ、開き直るんだ」
興味深そうに笑みを深める。
「よし、決めた。やっぱりきみの記憶は消しておこう」
大雅は慎重にあとずさった。
“やっぱり”という言葉に腑に落ちる。
どれほど巧妙に立ち回ったところで、最後には疑われる理由────驚くほど単純だった。
冬真が、端から大雅を信用していないというだけだ。
「手荒な真似はしたくないんだ。大人しく従ってくれるかな」
冬真の手が伸びてくる。
大雅を押さえ込んで無理やり目を合わせるつもりだろう。言葉とは真逆の魂胆だ。
(来い、早く────)
思わずそう念じたとき、ふっと風がそよいだ。
「大人しくするのはあなたの方ですわよ、如月さん」
ふいに声がしたかと思うと、屋上の中心にひとりの女子生徒が立っていた。
それを認めた大雅は思わず息をつく。
「は……?」
冬真は突如として現れたうららを訝しげに見据えた。
ドアが開閉したような様子もなければ、足音も聞こえなかった。
最初からここに潜んでいたとでも言うのだろうか。
あるいは、瞬間移動でもしてきたのだろうか。
「きみは誰? どうして僕の名前を知ってるの?」
冬真は穏やかな微笑を貼りつけ、うららに向き直った。
「答える必要があるかしら。既にお察しなんじゃなくって?」
やっぱり、と思った。琴音の仲間だ。
ここへは彼女に瞬間移動させてもらってきたにちがいない。
冬真の情報を流したのは大雅だろう。
危惧した通り、とっくに本来の記憶を取り戻していたわけだ。
不興を滲ませて笑みを消す。
「……さてと、さっそくかたをつけさせてもらいますわよ。お喋りに来たんじゃありませんもの」
うららは鋭い眼差しで、かざした両手を冬真に向けた。



