「……ふーん、まあそれも一理あるかも。ちょっと悠長すぎる理想かもだけど」
ややあって、紗夜は言った。
全面的に支持するわけではないものの、理解も納得もできる。
その理想を追えたら、どんな結末を迎えても後悔だけはしないでいられそうな気がした。
「一理どころか十理も百理もありますわ。わたくしはなんて愚かな勘違いをしてたのかしら……。まんまと力に溺れて恥ずかしいですわ」
一方のうららは、小春の言葉に心から感化されたようだった。
つい先ほどの発言を取り消したいほどだ。
力を得たからと思い上がって図に乗るなんて、愚の骨頂でしかないというのに。
「……ま、情報も同志も増えたしともかくよかった。な?」
蓮は小春を見やる。
ほっとした小春は顔を綻ばせて頷いた。
「大団円とはいかないでしょ……。如月たちのことはどうするの?」
紗夜は冷静に言い放った。
脅威と分かっていながら放っておくのだろうか。
「わたくしに任せて」
名乗りを上げたのはうららだった。
強気な表情で微笑んでみせる。
「わたくしの異能があれば、殺すことも傷つけることもなく如月さんを無力化できますわ」
「確かに……!」
うららの磁力魔法により、冬真の異能を奪ってしまうというわけだ。
いくら冬真でも傀儡魔法を失えば、勢いが削がれるだろう。
まともに戦うつもりなどないこちら側にとって、彼の挑発に乗っている暇はないのだ。
さっさとかたをつけた方がいい。
「今夜にでも幕引きしてきますわ。桐生さん、彼らの居場所を教えてくださる?」
「……待て、俺も行くから」
大雅は決然と言った。
冬真から異能を奪う────それができれば理想的だが、果たしてそううまくいくだろうか。
それに、もともと冬真たちと因縁があるのはほかでもない大雅だ。
決着がつくにしても、してやられるにしても、その場に自分がいないのでは無責任すぎる。
────解散したあと、ひとりになるのを見計らって大雅は瑚太郎に声をかけた。
「なあ。おまえの裏人格……ヨルについてどこまで分かってんだ?」
夕陽が街を溶かしていく。もう少しで日が暮れる。
瑚太郎の中で静かに眠るヨルの息遣いが聞こえた気がした。
「えっと、だいたいのことは……」
自分とは正反対の荒々しい性格で、戦闘狂で、血も涙もない残忍な男。
物証がなければ、瑚太郎はそんなもうひとりの自分の存在なんて信じられなかっただろう。
「じゃあ、ヨルが冬真たちの一味だってことは?」
はっと目を見張り、息をのんだ。
「嘘だ……」
「残念だけどマジだ。あいつらにもおまえの素性は割れてる」
瑚太郎の顔色が悪くなっていく。絶望したような白い色と、動揺に揺れる瞳。
それを目の当たりにすると、ようやく大雅の警戒も解け、代わりに同情的な気持ちが募った。
意図せず瑚太郎を追い詰めているようだった。
彼には逃げ場がない。



