気圧されて一瞬、呼吸を忘れる。
自身の何かを犠牲にするか、誰かの命を奪うか、ふたつにひとつなのだ。
「魔術師を殺せば、そいつの持ってる能力を奪えるんだ。でも、な? 無理だろ?」
おののいたように言葉を失う小春を見やり、焼きそばパンの包装を破りながら言った。
小春は否定できなかった。殺すなんて無理に決まっている。
なぜ蓮がここまで平然としていられるのか分からなかった。
「……だけど、そんなことどこにも書いてなかった。なのにどうして蓮は知ってるの? まさか、試して────」
「おい、俺は誰ひとり殺してねぇよ。これは他校にいる魔術師に聞いたんだ。……まあ、そいつも故意じゃなかったんだけどな」
今朝、彼の言っていた“狙われる”という言葉を、本当の意味で理解できた。
ただメッセージに従ってほかの魔術師を殺す以外に、持っている異能を狙って殺す、ということがありうるのだ。
ひとたび魔術師だと判明すれば、命を狙われる。
もっとも、いまの小春は何の能力も持っていないのだけれど。
「あれ……? ちょっと待って、いま“他校”って言った?」
小春は眉をひそめる。おかしい。
メッセージには、2年B組の生徒を殲滅すると書いてあった。
てっきり、クラス内で殺し合いをさせられるものかと思っていたのに。
「ああ、変だよな。確かにうちの学校とは書いてねぇけどさ……。少なくともあいつは“2年B組”じゃねぇ。命張って戦う理由なんかねぇんだよな」
蓮は暢気な調子でパンを齧る。
小春よりも随分先にプレイヤーになった蓮にとっては、既に非日常が日常になりつつあるのかもしれない。
ともかく、小春の疑問も蓮の言葉も真っ当と言えた。
“2年B組”が小春たちのクラスを指すとしても、事実としてクラス外にも魔術師は存在している。
12月4日に皆殺しにされる対象が自分たちのクラスなら、ほかの魔術師は何のために戦うのだろう。
命懸けで2年B組を守る理由もない。
「……まあ、それ言ったら和泉もだけど」
「え……! い、和泉くんも魔術師だったってこと?」



