ほとんど声にならない呟きをこぼし、勢いよく小春の両肩を掴む。
「ガチャとか、回してねぇよな? いや……それより、誰にも襲われてねぇか?」
小春は切迫した蓮の様子に圧倒され、半ば唖然としながら何とか頷いた。
確かに異様な代物ではあったが、それでもゲームはゲームだろう……。
何故、蓮がこうも取り乱しているのか、小春はそのことに戸惑った。
「……知ってるんだね、あのゲーム」
蓮の反応を受け、確かめるように言うと、蓮は小春から離れた。
些か落ち着きを取り戻したようだ。
「……ああ、知ってる」
「良かった、聞きたいことがあって。あのね……メッセージが来てから勝手にインストールされたの。消したいんだけど消せなくて。どうすれば良い?」
「どうしようもねぇよ」
諦めとも嘆きとも違う声色だったが、恐らくそのどちらもを経たのだろうことが分かるほど、いっそ毅然としていた。
「メッセージにも書いてあっただろ? 俺たちに、拒否権なんてねぇ」
どく、と心臓が重い音を立てる。
昨日恐れを抱いた不穏な一文が、現実感を増して伸し掛ってきた。
「プレイヤーに選ばれた以上……“最後の一人”を目指して、命懸けで戦うしかねぇんだ」
蓮があえて感情を押し殺しているからか、小春には目の前にいる彼が機械のように感じられた。
あまりにも淡々と言うから、その言葉の意味を理解出来なかった。
「命懸け……?」
小春の瞳が揺れる。
おおよそリアリティのない話だが、戸惑う傍らで何処か冷静な自分が、既に受け入れようとしていた。
確かにアプリ内には、戦うというような項目はなかった。
魔術師になるのは自分自身、プレイヤーは自分自身────現実という舞台で、この身一つで戦うということなのだ。
混乱と動揺の入り交じった表情を浮かべる小春を見つつ、蓮は首肯する。
「この先、非現実的でわけ分かんねぇことばっか起こる。お前も狙われることになるかも。けど、心配すんな。俺が守る」
蓮の、突き刺すほどの真剣さは伝わってきたが、そう言われても戸惑いや不安は消えない。
そんな顔をされたら、むしろ怯んでしまう。
「分かるように言って……」
「すぐに分かる。俺も知りうる限りは話す」
蓮は歩を進める。立ち止まったままの小春の脇を過ぎると振り返った。
「とりあえず学校行くぞ。……昨日言った通り、ぜんぶ説明するから」
小春は、はっと顔を上げる。
蓮の抱えているものは、あのゲームに関わっているということだろうか。
蓮は表情を引き締めた。まさか“そのうち”がこれほど早く訪れるとは思わなかった。
日常を侵食する不穏な気配を肌で感じ、小春は思わず緊張しながら足を踏み出した。