「どうするかは俺が見て決める。それでいいか?」
いつものようにポケットに両手を突っ込み、ふてぶてしくも悠々と振り返る。
「うん、お願い」
大雅は真剣な表情で、まずはうららと目を見交わす。
「な、何ですの……?」
「いいから、3秒だけ黙ってろ」
恐らくこれまでの人生において、大雅のようなタイプの人間とは関わったことがないだろううららは、彼の乱暴なもの言いに怯んだように口をつぐんだ。
大雅の頭の中に、うららの情報が流れ込む。
まず、磁力魔法は磁力を操る能力────うららの言葉通り、物体および術者自身に磁力を流し、引き寄せたり退けたりすることができる。
ただ、それだけではなかった。
磁力魔法の真髄。
どうやら、磁力で引き寄せられるのは物体だけではないようだ。
「……異能も引き寄せられるのか」
大雅は呟いた。
彼女はあえてそのことを口にしなかったのだろうか。
磁力で奪われた相手は“無魔法”の魔術師に戻るだけのようだ。
つまり、これは相手を殺さずして異能を奪うことができる唯一の能力だった。
その場にいる全員が驚きをあらわにした。
うらら自身も別の意味で目を見張り、大雅を凝視する。
「どうして、それを……?」
「見ただけだ。まずかったか?」
反応を窺うようなもの言いに、うららは首を左右に振る。
「とんでもないですわ。ただ、言うと警戒されるでしょうから、あとで話そうと思ってただけですの。お気を悪くしたなら謝りますわ」
確かに相手の異能を奪取できる能力の持ち主と聞けば、嫌でも防衛本能が働く。
たとえ命があったとしても、魔術師が“無魔法”となるのはほとんど死と同義なのだ。
「それより、あなたがさっきからおっしゃってる“見る”って……どういうことですの?」
「あー、あとでまとめて説明する。悪ぃな」
大雅は軽く受け流すと、再び読み取った情報を整理することにした。
もうひとつの能力、消音魔法だ。
両手を打ち鳴らすことによって発動し、再び手を叩くまで、術者と術者が触れた物体から発せられる音が完全に消失する。
周囲の音を拾うことは可能で、音が消えている者同士の会話も可能だ。
また、特定の対象のみの音を消すこともできる。
そして────と、大雅はやや目を細める。
「……奪ったんだな、消音魔法は」
磁力魔法により奪取したようだった。
もはやうららも驚かず、正直に頷く。
「わたくしを襲ってきた魔術師と揉み合いになって、そのとき初めて、磁力で異能を奪えることが分かりましたの」
「……ってことは、触れることで奪えるとか?」
陽斗が推測を口にすると、うららはまたも頷いた。
「ええ、厳密には30秒間」
「なるほど。簡単だけど厳しい条件ね」
少なくとも意識があれば、知らないうちに異能を奪われていた、という事態になることはないだろう。
消音魔法の元持ち主は、そういうわけにいかなかったようだけれど。



