「わたくしは百合園うらら。聖ルリアーナ女学院の3年よ。お察しでしょうけれど、わたくしも魔術師ですわ」
うららの言う通り、彼女たちが魔術師であろうことはそのワードを出した時点で悟っていた。
けれど、アリスは別の部分で驚きをあらわにする。
「聖ルリアーナ言うたら、超お嬢さま学校ちゃう?」
「あら、ご存知ですの? いかにもだけれど、いまは関係ないですわ」
うららは特に鼻にかけることもなく肯定した。
その学校名と評判はほかの面々も聞いたことがある。
「わたしは雨音紗夜……。月ノ池高校の2年」
カッターナイフを持ち歩くゴスロリ風の少女も、うららにならって名乗った。
かなり小柄だけれど、小春や蓮と同い年のようだ。
「あなたも魔術師なのね」
「うん……」
「あんたは何て言うか……メンヘラ?」
アリスは苦い表情で言う。
それを聞いた紗夜は、どこからか注射器を取り出した。
濃い紫色の液体が容器を満たしている。
目にも留まらぬ速さで距離を詰めると、その針をアリスの首元に突きつけた。
「死にたい……?」
「ご、ごめんごめん、冗談やん!」
「もう……こちらこそごめんなさい。でもその言葉は紗夜の地雷だから気をつけて」
紗夜を引き剥がしつつ、困ったようにうららは言った。
小春は紗夜の握っている注射器を見やる。
ガラスの中で揺れる禍々しい液体の正体は────。
「もしかして、それって……」
「うん、毒だよ。わたしは“毒魔法”の魔術師」
頷いた紗夜は、またどこからか幾本もの注射器を取り出して構えた。
黒いレースの手袋をしているせいか、さながら魔女のようにも見える。
「こえーな。何で注射器に入れてんだよ?」
「それはまた追い追い話すから……」
「きみは?」
「わたくしは“磁力魔法”と“消音魔法”よ。磁力の方は、物体やわたくし自身に磁力を流して、引き寄せたり退けたりすることができますの」
うららは能力について端的に説明した。
実戦においては攻守に不備のない異能だろう。
消音魔法は読んで字のごとくだ。
「今度はあなたたちのことを聞かせてくださる?」
それぞれが思わず顔を見合わせる。
ふたりの態度や早々に素性を明かしたところを鑑みると、敵意は感じられない。
信用してもいいだろうか。
そう思ったとき、おもむろに大雅がふたりの前へ歩み出た。



