ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜


 それは、この場にいる誰もの予想を大きく裏切る事実だった。

「二重人格……?」

「うん、夜の間は確実に裏人格に乗っ取られる」

 瑚太郎は眉を下げ、厳しい顔になった。

「日中でもたまに人格が入れ替わっちゃうことがあって、その法則は自分でも分からない。意図的に人格を交代する方法も分からない……」

 また、瑚太郎のときに裏人格の記憶はないし、裏人格のときに瑚太郎の記憶もない。

 その証拠に、大雅はヨルと顔見知りだが、瑚太郎は大雅を見たとき初めて会うようなリアクションをしていた。

 裏人格の存在を自覚したのは最近のことだった。

 朝、目が覚めたとき、服や顔に血がついていることがあったり、出かけた痕跡があったりしたのだ。

「だから、たぶん……陽斗を襲ったのはもうひとりの僕だ。本当にごめん!」

 瑚太郎は陽斗に向き直り、ばっと頭を下げる。

 ようやく仲間ができるところだったのに、厄介払いされるのが怖かった。

 そんな自分本意な理由で、この間は真実を打ち明けられなかった。

「いや……何か信じがたい話だけど、おまえが嘘ついてないってことは分かるよ」

 陽斗の言葉に、瑚太郎は顔を上げた。
 持ち前の鋭い嗅覚から判断したのだろう。

「大変な事情だね……。でも、こうなったら早坂くんも仲間ってことでいいんじゃない?」

 奏汰は瑚太郎に労るような眼差しを注ぎつつ、全員に向けてそう言った。
 この()に及んで誰からも反論はない。

「わたしもそう思う。よろしくね、瑚太郎くん」

 いち早く小春は同調し、泣きそうな表情の彼に笑いかけた。
 奏汰が言わなければ自分がそう言うつもりだった。

「うん……!」



 ────それから「外の空気を吸いたい」という陽斗の所望により、揃って屋上に出た。

 もとより活発な性格の陽斗は、病室にいるときよりも晴れやかな表情で空を仰いでいる。

「寒くないの?」

「全然。やっぱ冬は空気がパキッとしてて気持ちいいな」

 そのとき、ふいにドアが開く。

「結局ここへ戻る羽目になった……」

「まあまあ、そういうこともありますわよ」

 ぼやく少女と、それをなだめる女子生徒。
 どちらも見慣れない制服だ。

 小春たちの視線に気づいたうららは気を取り直し、両手を腰に当てて威厳を(かも)してみせた。

「ごきげんよう、魔術師のみなさま」

 そのひとことが爆風のように全員の警戒心を煽る。

「……何だ、おまえら」

 なぜか自分たちが魔術師であることは既に露呈(ろてい)しているようだ。
 否定や韜晦(とうかい)の余地はない。