「ちょっと、紗夜。リスカは勝手だけれど、わたくしといるときはやめてくださる?」
はっと顔を上げた少女もとい紗夜は、いささか冷静さを取り戻した。
ただでさえ物憂げな顔に不服そうな表情を浮かべながら、カッターナイフをしまう。
「うらら、邪魔しないで……」
「何ですって? 感謝してくれたっていいくらいなのに」
紗夜は取り合うことなく再びため息をつき、スマホの画面を見やる。
うららもその視線を追った。
「また、消されたんですの?」
「うん……」
ふたりはウィザードゲームの運営について情報を得ようと動いているのだが、成果はいまのところ芳しくなかった。
SNSをはじめ、人の目に触れるところへ書き込むと瞬時に消されてしまう始末なのだ。
思うように情報が入らず、あらゆる仮説はいつまでも推測の域を出ない。
「基準は何なの……? 誰が消してるの……」
「それもだけれど、警察や世間もおかしいですわ。運営が操作してるとしたら、連中はいったい何者なのかしら?」
「人智の及ばない何者か……」
当然、異能もお手のものだろうけれど、運営連中も自分たちと同じ“魔術師”なのだろうか。
ゲームにおけるフィールドも、対象となっているプレイヤーの属性も、メッセージの真意も、何も分からないまま。
「弱りましたわね。このまま魔術師同士で殺し合ったら、運営側の思うつぼだと言うのに」
「早く止めないと……。こんなくだらないバトルロワイヤルなんて」
紗夜も言う。声色に焦りが滲む。
自分たちのほかにも共闘している魔術師は存在しているはずだ。
そこには友情、恋情、ほかにも色々な情が絡んでいる。
それを断ち切り、仲間内で殺し合って最後の生存者になるなんて簡単なことではないだろう。
紗夜とうららも仲こそよくはないものの、殺し合いなんて望んでいなかった。
「やっぱり、もっと情報が欲しいね……」
「あ、そうですわ! 名花へ行ってみましょう」
ひらめいたようにうららが手を打つ。
直近で死人が出た名花高校なら、何らかの事情を知る魔術師がいる可能性が高い。
人との積極的な関わり合いを好まない紗夜は面倒そうな表情をしたものの、情報には代えられないと判断したのだろう。
ややあって、こくりと頷いた。
◇
『陽斗が目覚ましたみてぇだ。また意識が繋がった』
そんな大雅からのテレパシーを受け、小春たちは放課後、陽斗の入院している病院を訪れた。
「よ! 何か思ったより長いこと寝ちゃってたみたいだ」
そう言って笑う陽斗の様子を見て、ひとまずは安心できた。
死の淵を彷徨っていたとは思えないくらい回復している。
ここ数日の悲惨な出来事を知らない彼に、蓮は端的に説明した。
陽斗も慧の死には衝撃を受けたようだったけれど、すぐに事実として受け入れた。
「何ていうか……ショックだけど、塞ぎ込んでられないよな。ここにいる誰にだって起こりうる」
陽斗はそう言うと、気まずそうに肩をすくめる。
「魔術師を殺し回ってた俺が言うのもあれだけど」
「せやな。小春に怒られんで」
「小春に? 何で?」
「……あのね、陽斗くんにも聞いて欲しいんだけど────」



