チャイムが鳴る。担任による帰りのホームルームも終わり、教室も廊下も一気に騒がしくなった。

「帰ろうぜ、小春(こはる)

 いち早くリュックサックを背負った(れん)は、小春の机に歩み寄る。

 鞄に荷物をしまい終えた小春は「うん」と答えながら立ち上がるも、はっとあることを思い出し、両手を合わせた。

「ごめん、今日掃除当番だ」

「あー、じゃあ手伝う」

 蓮は背負っていたリュックを下ろし、教室後方にある掃除用具入れに向かった。

「いいよ、先に帰って。私が当番のとき、いつも手伝って貰ってるし」

「まぁ、でも俺が当番の日はサボってるからこれでチャラだ」

 ん、と箒を差し出される。反射的に受け取りつつ、小春は苦笑する。そういう問題ではない。

「お前と同じ班の奴もいつもサボってんじゃん」

 確かに蓮の言う通り、小春の班員は忘れているのか意図してなのか、こちらが言わない限り掃除に加わらない。

 もういい加減に指摘するのも億劫になってきたほどである。

「俺が手伝うから良いけどさ」

「その意欲は蓮が当番のときに使ってよ。班の子、困ってるんじゃない?」

「いや、むしろ俺が邪魔なくらいガチ勢だから」

 箒を動かしながら「何それ」と小春は笑った。

 ────蓮と初めて会ったのは、中学校に上がる年の春休みだった。

 道路を一本挟んだ向かい側の家の、さらに二軒隣に越してきた蓮とは、近所であることも相俟って、未だに腐れ縁が続いている。

 蓮は基本的に口が悪く、一見粗暴で冷たい人間に見えるが、実は周囲をよく見ているし、思いやりとあたたかみに満ちている。

 そのことを小春は再認識した。

 一通り床を掃き終え、ちりとりに集めたゴミを捨てる。箒をしまい終えると、小春は言った。

「ありがとね、手伝ってくれて」

「ん? おう」

 蓮はリュックを背負い直し、何でもないことのように頷く。

 小春も鞄を肩に掛け、蓮とともに教室を出た。



「あ、蓮」

「……おー」

 廊下を歩いていると、正面から向かって来ていた数人の男子たちが、蓮に気付き足を止める。

 直接の関わりはない小春だが、彼らがサッカー部員だということは知っていた。

 以前、蓮と一緒にいるところをよく見かけていたからだ。

「今から帰り?」

「うん」

「……お前さ、本当どうしたの? まだ戻んないの?」

「まぁ、そのうちな」

 部員たちの問いかけに蓮は苦く笑いながら答えた。蓮はサッカー部所属だが、一か月くらい前から休部している。