その2


キナオがそのオンナこと、リナコと落ち合ったのは、富士山を一望できる本栖湖ほとりのLホテル5階の一室だった。

東京に住むキナオは前日、金曜日の深夜に家を出て、愛車のNBOXでその日の朝、Lホテルにチェックインした。
リナコがホテルに来るのは11時ちょうどであったが、何しろキナオは余裕を持って彼女を迎えたかったのだ。

”とうとう運命の日を迎えたぞ!ちょっと怖いが、オレはリナコの条件を呑んで彼女を抱く。そして、彼女の左手…、その4本の指で背中のナマ肌を突きさされるんだ!”

まさに倒錯した一途な決意…。
絶景を写すパノラマのようなフィックスの大窓に向かって、キナオは再度自身にこう言い聞かせていたのだが…。
なにしろ、低俗なスケベ心に根差した好奇心に駆られた卑小な”オトコの決意”ともなると…、窓の向こうに広がる悠然な富士山が眉をひそめているような絵柄になり果ててしまう。

とは言え、キナオにとっての一大冒険の瞬間はもう間近かとなり、さすがの小心者な彼もいい意味で開き直ってきたのか、もうアタマの中はもうすぐナマで会えるリナコのイメージを巡らせ、ほぼルンルンモードにスイッチはオンされていたが!


***


”ピンポーン!”

静かな部屋 にその音は、キナオのスマホから鳴るアラーム音と同時にからの耳へと届いた。
時に、11時ジャスト!

”おー!なんて時間に正確なんだ、リナコちゃんは!きっとA型のおとめ座だろう~~💖”

何の根拠もない、そんあリナコ像をパンパンに巡らせ、キナオははやる気持ちを必死に抑え、すでに解除してある入り口の重い扉を開くと…。
彼はまず嗅覚で彼女の存在を知らされる。

その匂い…。
柑橘系とコパトーンが混じった、ややキツメな南国な香り感であった。

続いて彼の視界も彼女を捉えた。

”おお~~❣モロ、スポーツギャルじゃん!”

キナオは、小柄でショートカットで顎が鋭利で服を纏っていても一見で体育会系な…、そんな子がタイプだった。
で…、第一印象のビジュアルはほぼその理想に収まっていたのだ。
そして肝心の左手にも視線を注がせたが、彼女は両手にレザーのサックをはめていた。