その1



そのウワサをキナオが初めて知ったのは、数か月前のことであった。
要はネットを介して、ある怪しくもダークなソレにたどり着いたと…。

≪そのオンナは、左手の指4本にピンクスネークの渡り描き⇒タトゥーを持つホテトル嬢で、客には事前にある条件を申し出、それを承諾しない場合、ハンドジョブどまりで徹底していると…。で、その条件が何ともで…≫

ここでの何ともな条件とは…!
かなり妖しくダークな色彩を伴うものであった。

「あのねー、私、男の人と抱き合うと、相手の背中に爪を立てずにはいられないのよ~。もっとも、それ、左の指4本だけで…、親指除きでね。だから、片手ってことなんですよ、実際は。でも、エッチ中はお仕事でもアタマ真っ白になっちゃうタチなんで、思いっきりになるの。多分、いっぱい血が出るわ」

単刀直入に…、その”条件”を告げると、程よいエクボが愛らしい笑みをこぼしながら、そのオンナは左の手の甲を客の前に突き付けるそうだ。
すると…。
次の瞬間…、客の眼前には左手の親指を除く4指を横断して描かれた、蛇の姿が映し出されるのだった。

”それ”自体は、ピンクのタトゥーであったが、蛇は小指側に頭を向けた可愛い蛇の全景(ご丁寧に舌先入りで❣)はどこか魔術の匂いが漂ってくるような妖しいビジュアルと言えた。

なので!
ここで客は気味悪がって彼女をNG出しする者も多く、このヘンテコな条件を呑んでまでベッドインするのを躊躇い、ハンドジョブでいいやってパターンが大半だったと…。


***


では、少数派であったであろう条件OK派のオトコたちは、本当に彼女の蛇指4本で背中を突きさされたのか、そのオンナとのエッチはどんなだったのか…❓
コレとなると、ネット上では都市伝説のノリで諸説が流れる訳で。

≪そのオンナは客の背中を爪で引っ搔くというより、肌にめり込ませるように突き刺し、ほぼ100%、客は流血させられてるらしい≫

≪しかし大概の客は皆、経験したことにない快楽に昇天し、もう一度と願い出るらしい≫

≪だが、決してそのオンナは応じない。要は彼女にとって、客は一度限りってことをルールにしているみたいで!≫

しかし、そのすべては伝聞調で、言わば体験談…、つまりそのオンナの客としてヤッた当事者の体験談ではなかった。

≪そのオンナの客経験者は不思議なことに、SNS上には決してその快感体験を発していない。なぜか…⁉そのアンサーは完結明瞭だったさ…≫


***


”なるほど~~!要は、最初の条件を呑んでそのオンナを抱いてる最中…、厳密には彼女が悶え狂って相手の背中をスネークスネールでぶっ刺しながら、こう呟くと…”

「私を抱いたコト、決して口外しちゃダメよ!誰にも!ネットでの発信もよ!」

「もし、漏らしたら恐ろしいことになっちゃうわよ。それ、私には止められないの。悪いけど~💖」

”で…、すなわちその警告を破った客は、どんな目に遭ったかも不明って訳だ。だから皆、それが知りたくてそのオンナを抱くキケンな欲求に追い込まれるんだ。オレを含めて…≫

もっとも、ネット上には過去、何度か元客を名乗って書き込みがアップされていた。

≪いやー、ついにあのオンナとヤッタぞ!で、ピンクなスネークちゃんのお爪、ぐっさり突き刺されてきたわ。サイコーだったぜ≫

大抵はこういったノリではあったが、概ね数日で削除されるのが常であった。
そんなことから、この低俗なエロ系トピックのハードフォローワーらは、こんなウワサを定説化させたのだった。

≪要は、口外したら殺されるんだ!ピンクの爪の呪いで!偽りの発信したヤロウも…。そいつは性欲に憑りつかれた魔女だろう!蛇に魂を吸い取られ、ニンゲンの精気を生命源にしてる、不死の美人ヨーカイなんだ!≫

とういうことなので…!
世のスケベ男どもは、こう心に誓ってしまうのであった。

”よーし!こうなったら自分でそのオンナを探し当て、抱いてやる!そんで彼女の爪に思いっきり刺されてきてやる!きっと極上の快感に違いない~~❣”

そして…‼
キナオもおっかなびっくりなながら、このアホな決断を跳ねのける意思を持ち合ていない浅はかなオトコの一人であったのである。

で…‼
この決断から2か月近くを擁して、そのオンナがリナコという静岡の”ステーション”にイレギュラーエントリーしているホテトル嬢だとキャッチすることになる…!