結局マリエル様は、家宝にした栞のお返しとして山の麓にある街の人気洋菓子店の「木の実のクッキー」を添えて返事を出した。
 その数週間後のことである。
 ライラ様から手紙が届いた。
 
 拝啓 マリエル様
 冬の足音が近づいてまいりましたね。
 そちらは王都とはちがい雪がたくさん積もるとうかがっております。
 王都はうっすら雪が積もる程度ですから、わたくしは雪だるまを作ったことがありません。
 いつかマリエル様と一緒に大きな雪だるまを作ることが夢です。

 真っ白な雪の中で、どうかマリエル様がわたくしに気づいてくださいますように。
 ライラより
 
 今回の手紙はどういうわけか2枚に分かれていた。
 1枚の便箋で収まりそうな行数であるにもかかわらずである。
 そこに少々違和感があったのだが、我が主はそんなことお構いなしだ。

「ライラ嬢と雪だるま……くっ!」
 そう言いながら目を瞑って胸を押さえている。
 どうやらまた死にかけているらしい。まったくしょうがない人だ。

 おまけに、便箋の匂いまで嗅ぎ始めたではないか。
 いよいよ変態の道へと進み始めたか……そう思った時だった。

 マリエル様がすっと真顔になった。
「カーク、アルコールランプを持ってこい」
 鋭い眼光と低い声は国境警備隊長のそれに切り替わっている。
 急に何が起こったのかわからないまま急いでアルコールランプを用意して戻った。

 マッチで火をつけたマリエル様が、余白だらけのライラ様の2枚目の便箋を炎にかざすと、驚いたことに何も書かれていなかった部分に薄茶色の文字が浮かび上がってきた。
 あぶりだし――乾燥すると無色になる果汁や花の蜜で書き、熱を加えるとその文字が浮かび上がってくるという子供だましの暗号文書だ。

 なるほど、最後の一文の「白い雪の中でわたしに気づいて」という若干不自然な内容もそういう理由だったわけか。
 マリエル様が内容と状況から察してこのことに気づいたのか、それとも便箋の匂いを嗅ぐという変態行為の延長でたまたま気づいたのか、そこはあえて聞かないことにしておこう。

 それよりも気になるのは、そのあぶりだしで書かれた内容だ。
 ただの暗号ごっこなのか、それとも――。