体はゴツイものの心は思春期の少年だったマリエル様は、君の婚約者だと紹介された相手が5歳の幼児だったことに驚き、号泣されたことに戸惑い、婚約解消はままならないと聞かされてライラ嬢が可哀そうだと心を痛めた。
 その後、ひとまず文通で親交を温めてはどうかという先方の提案に乗る形で、この12年間ひたすら手紙のやり取りを続けているふたりなのだが、その途中でライラ様がマリエル様を女性だと勘違いしていることが判明した。

 文通を始めて1年ほど経った頃、ライラ様が描いたという絵が同封されていた。そこにはお姫様のようなドレスを着たふたりの女児が描かれていたのだが、そこに「らいら」「まりえる」と名前が書かれていたのだ。
 それを見たマリエル様は、名前が女っぽいから女だと勘違いされても仕方ないと笑っていた。

 ここで再び両家による話し合いがなされたのだが、ライラ様はおそらく1年前に会った怖ろしい巨人と文通相手が同一人物だとは思っていない、ならばあの恐怖体験は思い出させないほうがいい、当分このままでいこう! という結論に至ったようだ。
 そしていまだに、ライラ様の輿入れまで残り1年となった現在でもマリエル様は女性のフリをして文通を続けているのだ。

 はっきり言って、ライラ様の家族はモンザーク家に彼女を嫁がせる気などないのではないかと思っている。
 マリエル様の乳兄弟として幼い頃から共に過ごしてきた自分は、彼のことを誰よりもよく知っている。
 体躯があまりにもボス猿であるために見過ごされがちだが、よく見ればマリエル様の顔立ちはお母様似でとても綺麗なのだ。
 それに性格だってまっすぐで、これまでライラ様にきちんと操を立てて女遊びもしたことがない。夫婦になれば彼の良さがわかるはずだし、間違いなく家族を大事にする良き夫になるだろう。
 それにマリエル様の方は、しっかりライラ様への恋心を募らせている。
 国家行事で王都へ行くたびに、遠くの柱の陰からライラ様の成長を確認されては頬を赤らめていた。
 そんなストーカーまがいの気持ち悪い……おっと失礼、健気な我が主の幸せを切に願っている。