「むしろ嬉しいです。だって、わたくしたち来年には結婚して夫婦になるのですから、その前に多少のスキンシップで仲良くなっておいても誰も咎めたりしませんわ」
 ライラ様が恥じらいながらもはっきりとそう言うと、マリエル様は胸を押さえ始めた。
「結婚して……夫婦に……」

 いかん、またヤバい雰囲気だ。
 レモン水を飲むよう促そうと思ったら、マリエル様本人もここで死ぬわけにはいかないと思ったのだろう、グラスを一気に呷った。
「ゴフッ! ゲホッ!」
 そしてむせた。

 慌てて甲斐甲斐しくマリエル様の背中をさするライラ様は、心配しつつもとても嬉しそうに笑っている。
「マリエル様の背中はとても大きいんですのね! どうしていつも王都にいらした時にかくれんぼなさっていたのですか? お体が大きすぎていつもはみ出していらっしゃいましたけど」

 …………。
 つまり、柱の陰からこっそりライラ様を窺っていたのがバレバレだったというわけか。
 確かにこの巨体が隠れられるはずもないことはわかっていたが、こちらとしてはボス猿が婚約者であることにライラ様は気づいていない前提だったため、その姿に気づいたとしても大男が何かコソコソしているとしか思わないだろうと踏んでいたのだ。

「それは……」
 マリエル様が言い淀む様子を見て、ライラ様がハッと何かに気づいたように大きく目を開いて両手で口元を覆った。
「まさか……」

 ストーカーしていましたと正直に頭を下げるしかないだろう。
 そう覚悟した時、ライラ様がポンとかわいらしく手を叩いた。
「かくれんぼの鬼は、わたくしだったのですか!?」

 は?

「では、わたくしのほうから駆け寄って行って『みーつけた!』と言えばよかったんですね!?」
「くっ……」
 もったいないことをしたと悔しがるライラ様のあまりの可愛らしさに激しく悶えるマリエル様だ。
 
 ライラ様が敵国の刺客だったら何度殺されているかわからないな――そんなことを思って口元を緩ませながら、メイドに空のグラスを渡し同じものをピッチャーに入れて持ってくるようお願いしたのだった。