ライラ様によれば、手紙に書かれた奇妙な言葉遣いを、辺境の方言のようなものだと思っていたらしい。

 グラーツィ伯爵家のほかの面々の思惑はともかく、ライラ様だけはマリエル様のことを素直に受け入れてくれていたことに感動してしまう。

「お会いしたくてたまらなかったマリエル様のお姿を拝見して、わたくし思わず飛びついてしまいました。はしたないって思われていたらどうしましょう」
 ライラ様がしゅんとしている。

「ご安心ください、そのようには思っていないはずです」
 なんせ、あなたの可愛らしさに瞬殺されてしまいましたから――。
 そこまで言う代わりに、しゅんとしているライラ様を褒めて差し上げることにした。

「ライラ様の行動力には良い意味で驚かされてばかりです」
 我が主に会いたいがために周囲に嘘を吐いてまでここまでやって来ようとしたこと、そして、顔を合わせるや否やいきなり抱き着いたこと。
 あのボス猿のような体にダイブできるような勇気のあるご令嬢はなかなかいないだろう。
「マリエル様の体は相当硬かったのでは?」

 ライラ様はまた手をポンと叩いた。
「そうなんです! 普段は枕でイメージトレーニングしておりましたので、あの硬さは誤算でしたわ!」
「ええっと……枕でイメトレとは?」

 ライラ様によれば、いつかマリエル様に会える日が来たらきっと嬉しさの余り上手く喋れないだろうから、その胸に飛び込んで喜びを伝えようと決めていたんだとか。毎晩メイドが下がった後にベッドの枕を積み重ねてそれをマリエル様に見立て、イメージトレーニングを重ねていたらしい。

「おかげさまで本番も、助走、踏切り足、タイミング、角度、全てにおいてバッチリでしたの!」

 得意げにふんすと胸を張るライラ様の可愛らしさに、思わず自分まで胸を押さえそうになったことは、絶対にマリエル様には内緒だ。