街に到着してみると、マリエル様から連絡が行っていたようで騎馬隊の隊員が護衛してくださることになった。
 そのお気遣いが嬉しくて舞い上がっていたわたくしとは対照的に、アニーは落ち着かない様子で
「レディーの着替えを覗くような真似はなさいませんように。服飾店の正面でお待ちください」
と隊員たちに何度も言っていた。
 そのパール服飾店に着いてみれば、どういうわけかお店は警備隊に囲まれて物々しい雰囲気になっていたのだ。
 何でも、店主が逮捕されたとか。

 当然ドレスを買えるような状況ではなく、これに取り乱したのはアニーだった。
 それならドレスが買える街まで引き返しましょう! と仕切りに言われたけれど、そうなると今日中にモンザーク邸に到着できなくなる。
 すぐ目の前まで来ているのに。
 大体、今日のアニーはひとりでドタバタして一体どうしたんだろうと不思議に思いながら
「このままモンザーク家に向かいましょう」
と指示したのだった。

 その道中、アニーが今度は
「そんなシミのついたドレスのままではみっともない」
「グラーツィ伯爵令嬢がそのような汚れたドレスで人前にでるのはいかがなものか」
と、紅茶をこぼした張本人が何を言っているのかと正気を疑うようなことをしつこく言い出したのだ。

 しかしそれも一理ある。
「それもそうよね……」
 その一言でアニーは活気づき、止める間もなく勝手にわたしが馬車を降りたくないと言っている、マリエル様には会えないと告げてしまったのだ。