いつの間にか日が落ちて、外が夕闇に包まれていた。
 屋敷の前に1台の馬車が停まっている。
 玄関の前にはすでに隊員と使用人たちが並び、馬車からライラ様が降りて来るのを待ち構えていた。
 遅れて到着したマリエル様がその列の中心に立ち、馬車の扉が開くのを待っていたのだがその気配がない。

 迎えに来いということなのかと執事が足を踏み出した時、馬車の窓が開いた。
 暗くてよくわからないが、どうやらライラ様ではなくメイドのようだ。
 そのメイドがうちの執事と何か会話を交わし、執事が慌てた様子で引き返してきた。

「ライラ様が、馬車を降りたくない、マリエル様とは会えないとおっしゃっているようです」

 我々に衝撃が走る。
 教育の行き届いた使用人たちですらざわつくほどの事態だ。
 向こうから「会いたい」と言ってきて押しかけて来たはずなのに、この期に及んで「会えない」とはどういうことなのか。

 するとマリエル様が踵を返した。
「今日はお疲れなのだろう。馬も疲れているだろうし、この時間から引き返すのも危険だ。気は進まないだろうが今宵は我が屋敷に泊まっていただくほかないとお伝えしろ。食事も客室へ運ぶように」
 声が明らかに落胆している。
「かしこまりました」
 執事がそれを馬車へと伝えに行く。
 それを見届けることなく我が主は屋敷の中に入って行ったのだった。