我が主には「辺境のボス猿」と怖れられる屈強な男としての矜持というものがないのだろうか。
 筋肉に覆われた体は15歳の頃からさらに二回りぐらい大きくなっているため、初対面の時以上の恐怖をライラ様に与えてしまうかもしれない。
 しかし、それがどうした。たゆまぬ鍛錬を重ねた努力の証だ。
 婚約者のためにここまでするか!?
 女装などすればさらに怖がられるだけではないか!
 そんな怒りさえ沸いてくるが、その怒りのぶつけどころがない。

 側近がそんな歯がゆい思いをしているとも知らず、マリエル様はトーニャが持って来たウィッグと布を抱きかかえていそいそと試着室へと入って行った。

 ほどなくして出て来た彼の頭は一部だけ金髪のロングヘアになっていた。どうやら頭がデカすぎてウィッグが足りなったようだ。
 おまけに、巻きスカートにしようとした布も幅が足りなかったようで、巻ききれていない状態だ。
「なんか、おかしいぞ」

 なんかじゃなくて、かなりおかしいです!