VIP用の個室に通してもらうと早速切り出した。
「実はですね、警備隊のちょっとした余興でマリエル様が女装することになったのです」
「まあ……」
 静かに告げるとトーニャは目を丸くしながらソファに腰かけるマリエル様を見つめた。

 マリエル様が膝の上で両拳を強く握りしめながら緊張した様子で口を開く。
「それが明後日の予定なんだが、どうにかなるだろうか」
 急を要する場合は既存のドレスを手直ししてどうにか体にフィットさせるのが一般的だ。
 しかしこの巨体が収まるドレスなど存在するはずがない。
 そうなると、採寸、型紙作り、生地選び、裁断、仮縫いというフルオーダーの手順を踏まなくてはならない。明後日に納品ということは作業できるのは実質明日1日のみだ。

 どうにもなりません! とピシャリと言ってくれることを期待していたのだが、トーニャの目がむしろ輝きを増したように見えたのは気のせいだろうか。
 こういう難題を突き付けられると逆に張り切るタイプなのかもしれない。

「女装と言いますと、ドレスを着用しなければいけないのでしょうか」
「いや、とりあえず女性に見えればいい。だから最悪スカートだけでもオッケーだ」
「なるほど。それでしたら巻きスカートという手がありますわ。四角い布をぐるっと腰に巻き付けるだけですので、どうにかなります」
「おお! 助かる。さすがだな」

 ああ、なんてことだ。
 どうにもならないと言ってもらいたかったのに、どうにかなるだなんて!
 心の中で盛大に舌打ちしている間もマリエル様とトーニャの話は進んでいく。

「そうなりますと、上半身はお手持ちのシャツになりますがよろしいですか?」
「正装用の白いシルクシャツでいいだろうか」
「あら、ぴったりですわ。それと、女性になりきるにはお化粧とアクセサリーも必要ですわね。ネックレスは通常の倍……いえ、4倍ほどの長さのチェーンが必要かしら」

 それはもはや、猛獣につける鎖では!?