「こうなったら、女のフリをするしかない」
 マリエル様がとんでもないことを言い出した。
 
「無理です! 絶対に無理ですって!」
 ボス猿が女装なんてしてみろ。気色悪すぎて普段マリエル様のことを見慣れているはずのメイドの中にも卒倒者が出るかもしれない。

「いいや、そんなことはない! 諦めるな! どうにかしろっ!」
 こういう時、言い出したら聞かない頑固な性格が本当に厄介だ。
「どうにかするったって、あなた自分の体の大きさわかっているんですか? あなたに合うドレスなんてあるわけないでしょうが!」
 山を下りれば街に服飾店があるが、たったの2日でドレスを仕立てるのは無理があるだろう。
 こんな大男のドレスだなんて布がどれだけ必要なんだろうか。
 いや、そういう問題ではなく、女装したボス猿なんて絶対に見たくないっ!
 
「それでもどうにかしろ~~っ!」
 屋敷の全ての窓が震えるような怒号が響き渡ったのだった。