頭を下げて謝ると院長はニコニコと笑い、肩をポンと軽く叩く。そして、院長に連れられて更衣室に案内され、そこで私服からえんじ色のスクラブに着替え、白衣を羽織る。

「さあ、行きましょうか」

「はい！」

院長に案内され、検査技師や看護師、そして患者が行き交う廊下を過ぎていく。この中に事件に関与している人間がいるかもしれないと、笑みを浮かべて「いい先生」を演じつつも、桜士は警戒をしていた。

潜入捜査官である桜士が働くことになったのは、救急科である。日本の救急医療の現場は万年人手不足であり、毎日逼迫している。

（それに、救急では彼女も働いている……）

先ほどあったことを桜士が思い出していると、救急科に到着した。ドアを院長が開け、「皆さん！」と声をかける。桜士はニコリと笑いながら言った。

「今日からここで働かせていただきます。本田凌です。よろしくお願いします」

「えっ、嘘！？」

桜士が挨拶をすると、私服から同じえんじ色のスクラブに着替えおにぎりを食べていた一花が驚きで大声を出す。

潜入捜査の幕開けである。