夕凪仁くん。


輝きすぎて近寄りがたい存在だったはずなのに、今一番近くにいることが信じられない。


それに彼が自分のすぐ後ろに乗ったことで、身長の差が縮まった。
顔との距離が近い。近すぎる……


この状況はまるで……


(恋人同士みたいだ……)


「カメコ、前。見てないと転ぶぞ」


「っ!…わわ、わっ!」


夕凪くんに注意され、急いで前を向いたのだが……


エスカレーターから降りるタイミングがわからずに小さく足踏みしてしまう。


(ど、どうしようっ)


「どした…?」


「お、降りられません…っ…」


前に一度、エスカレーターから降りる時に、段差につまづいてこけそうになったことがある。


それから降りる瞬間が少しこわいということを、私はすっかり忘れていた。


目前に迫り来る段差に、ひとり、あたふたと焦っていたのも束の間……。