「この子がね、ドレスアップをお願いしたいなっちゃん。うちの弟が可愛くしてほしいんだってさあ」


一華さんはニヤニヤする口元を、細い指で隠すように抑えている。


「えぇ〜可愛い〜〜っ。終わったらここに弟くん呼んで下さいよ」


「ふふっ、もちろん。最後まで見届けないと」


「そうとなれば私の腕の見せ所ですねっ」


その可愛らしいスタッフさんは、私の目を真っ直ぐに見つめては微笑んだ。


「なちさん、こんにちは。今日のヘアアレンジを担当する天野雫です。絶対素敵にするので、よろしくお願いしますね」


正直逃げ出したい気持ちでいっぱいだったけど、歳下の私にも礼儀正しく挨拶をしてくれる雫さんに、不思議と気持ちがほぐれていく。
そして今日の目的が頭をよぎる。


(心を込めて、ありがとうを言う練習……)


「よっ、よろ、しく……お願いします…」


辿々しく返事すると、雫さんはにっこりと笑顔で私を席に案内してくれたのだった。