「…っ…」
その光景だけで、もう十分。
きっと二人の間には私の知らない物語がある。見えない絆がある。
そんなことを考えながら、気づけば足が動いていた。
空気がじめっとする、日の当たらない暗いほうへと。
無意識にショルダーバッグの紐をギュッと握る。
(当たり前だよ……)
夕凪くんに彼女がいるなんて、当たり前のことだった。
私が知らないだけで、夕凪くんには夕凪くんの世界があるのに。わかっていたのに。
それなのに、どうして……
(どうしてこんなにも、胸が苦しいの……?)
素敵な女性でお似合いだな、とか。美男美女で理想のカップルだな、とか。
もっと純粋に、汚れなく夕凪くんを好きでいたい。
大事にしたいと思ったこの気持ちからは、同時に苦しさも醜さも生まれてしまう。
これじゃあ、伝えたかったありがとうまで汚れていくみたい……