痴漢に気づいて声を出そうとはしたけど、こわくて動画を撮るなんて方法考えもつかなかった……と、たまたま持っていたスマホを見つめた。


その行動が本当に証拠があるかのように見えたのか、相手の男性の動揺は激しくなっていく。


するとタイミング良く電車がプシュー…と音を立て、次の駅に着いた。


「う、うわあああっ」


扉が開くと同時に異次元高校生に掴まれていた手を振り払い、ホームを走り去ろうとする痴漢をした男の人。
しかし人が多くてうまく走れずに、自分で転んでしまった。


車内では「なにあれ…ダサ」「キモい〜っ」「死ねばいいのに」というヒソヒソと笑い声にも似た話し声が聞こえてくる。


「…………」


(すごく、息が…しづらい……)


ここにいた人の中には、私以外にも痴漢に気づいた人がいたかもしれない。それでも陰口や悪口は簡単にできる。


(助けられなかった私も、同じだよ……)


逃げていった男の人を追いかけ、既に異次元高校生は電車から降りていて、近くにいた駅員さんと何か話している。


そんな光景を見届けながら、電車は次の駅へと進み始めた。


痴漢されていた女の子もその場からいなくなっていて、一緒に電車を降りていたんだと、後で気づいたのだった。