「…わからないわ。わからないからこそ、近くない存在だからこそ言えることだってある。覚えておいて。私はこの学校のためにいつも目を光らせているということ」


そう言い残し、葉桜さんとその周りにいた生徒はその場から去っていった。


葉桜さんには葉桜さんの守りたいものがある。
理解はできるのに、返事ができなかった。
夕凪くんがまるで悪のようにされることが、どうしても許せなくて、悔しくてしょうがなかった。


「なち。電車の彼が夕凪仁だってこと言わなかったのは、私に何か言われると思った?」


「…………」


言葉の代わりに首を横に振る。


違う。何か言われるとは思ってない。
まつりちゃんは夕凪くんが黒霧高校だからって否定する人じゃないことは知っている。
心配されるかもしれないとは思ったけど……


ただそれ以前に、私は夕凪くんのことを見ているだけだったから。
すごく憧れの人で、今日話せたことは夢みたいな話だったから。
例え電車の中で同じ空間にいても、夕凪くんは遠い存在の人だから……