「ち、違う、俺は何もしてないぞ…!」


男性の額からは汗が滲み出ていて、あからさまに慌てていることが伺えた。


何もしていないはずはない。ちゃんとこの目で見たのだ。
この人は嘘をついている。


「チッ…めんどくせー……だから電車は嫌いなんだよ」


「しょ、証拠はっ!俺だっていう、証拠はあんのか…!」


「あ"?」


そうキレながら向けた彼の視線の先には……


「そこのあんた」


「…………」


「あんただよあんた。三つ編みの丸メガネ」


「……っ!?」


(わ、わたっ、し!?!?)


この電車の中でそんな格好をしているのは、見渡さずとも紛れもなく私しかいなかった。


「あんたさっき、動画撮ってたよな?」


(ど、動画…?)


急に自分に声をかけられたことによるパニック状態の中、必死に考えてみても全く身に覚えがない。