こんな優しい男の子、どこを探したっていない。
……ううん、ちがう。
どこを探してももう私は、夕凪くんじゃないと好きになれない。


私にとって夕凪くんは、不良の中のひとりじゃない。


「一括りに、しないで下さい……っ」


夕凪くんは夕凪くんだ。この世界にたったひとりしかいない。
だからこの気持ちも大切にしようと決めた。


家庭教師に来た宮下さんの言葉が頭に浮かぶ。


"なちさん自身の気持ちや時間だって、大切だからね"


息をなるべく吐き、思いきり吸うと、それだけで自分の震えを感じた。


こわくても大丈夫。私はもうひとりじゃない。
隅からただみんなを眺めていた頃の私じゃない。


「夕凪くんとは、付き合ってませんっ!……でも、だけどっ、私は彼のことが、すきです…っ……私の、片想いです……この気持ちに、嘘はありません……っ」


自分の気持ちを言葉にすると、思った通り涙が溢れ出てしまった。