書店の中に入ると、「俺そこら辺適当に見てるから」と、掴まれていた手がスッと離される。
きっと私が自由に本を見れるように、気を遣ってくれた。
けれどそのまま奥のほうに歩いて行こうとする彼の服の裾を、今度は私の手がぎゅっと掴んでいた。全くの無意識である。
ハッ、と驚き、パッ、と手を離す。
「ごご、めん、なさいっ」
(私、なんてことしてるの〜〜…?今、手が勝手にっ)
焦る私のほうを振り向いた夕凪くんの表情も、びっくりしているみたいだった。当たり前だ。
「〜〜…っ」
恥ずかしさで、かーーっと体が熱くなって、泣きそうになる。
我儘も度を越せば身勝手で鬱陶しい。
頭ではそれがわかっていても、体が勝手に動いてしまった。
「……それは、俺いていいってこと…?」
「っ、ゆ、夕凪くんが良ければっ、一緒に、ど、どうですか……?」
やってしまったことを今更取消しはできないので、ヘンテコなお誘いをしてみる。
断られることは大前提で。これがきっと俗に言う、当たって砕けろということなのかも……