「じゃあ……お互い気になる店回るってことで」


そう言ってフゥ、と小さく息を吐くと、夕凪くんは再び私の手を握り椅子から立たせる。そしてさっきよりもゆっくりと歩き始めた。


「我慢せずに言えよ。ちゃんと、行きたいとこ」


「は、い……」


繋いでいるわけじゃない、ただ鷲掴みされているような手も。
どこか蕩けそうに甘くて優しい声も。
本当に恋人同士のような錯覚を起こしてしまいそうで、ブンブンと首を横に振る。


"我慢せずに言えよ"


何度も頭の中を繰り返す。夕凪くんから言われると全然違うことに気づいて、ギュッと目を瞑った。


私は今日、ずっと状況の把握ができていない。まるで夢の中で、願望を叶えてもらっているかのようで……


こんなに幸せでいいのだろうかと思う反面、もっと一緒にいたい、夕凪くんのそばにいたいと思ってしまう。
自分でも図々しさに驚いてしまうほど。


恋って、我儘で、残酷なのかもしれない。


いつか魔法がとけるように、夢から醒める時が来る────でもできることなら、一秒でも長く今日が続きますように……。