「本当に?」

 白石刀哉は寂しそうに微笑んでから頷き、「きみ以外に好きな女性はいなかったんだよ」とつづけた。

「……そう」

 急に目頭がカッと熱くなった。鼻のおくがツンと痛くなり、唇がふるえた。目をふせると、熱をもった涙のつぶが頬をつたってながれ落ちた。

「ありがとう……っ」

 白石刀哉に礼を言った。

 兄の世界を見てきた彼が断言するのだから、それが真実なのだろう。すとんと胸に落ち、染み込んだ。

 兄も私のことを特別な意味で想ってくれていた。私だけの片思いじゃなかった。彼の口からそう聞けただけで、もう充分だ。

 ただひとつ、兄への遺憾をあげるとしたら、気持ちをつたえられずに離ればなれになった―――ということだから。

 すん、と洟をすすると、例によってしょっぱい味がして、なんとなく笑ってしまう。

「私、思ったんだけどね。兄が眼の移植をしようと思ったのは、もしかしたら私のせいかもしれないの」

「え?」

「一度兄に言ったことがあるの。その茶色い瞳が綺麗で、大好きだって」

 彼は口をむすび、無言で思案していた。

「直接、兄自身を好きだと……告白することはできなかったんだけどね」