そして、綾音と会えなくなったころから、僕の脳は正常さをとりもどし、『彼』の夢をまったく映さなくなった。

 ひどい眠気もなくなり、白昼夢もおこらない。翼の眼球の記憶がすべての再生を終えたのだ。

 二十年分のフィルムを終えるには、早すぎるんじゃないか、そうも思ったが。

『彼』が思い出深いエピソードだけを抜粋して映していたとかんがえたら、納得がいく。

 あとは僕の記憶のなかから彼らの思い出が消失すれば、すべてが元どおりだ。

 喫茶店『Komorebi』に立ち寄らなくなって、一週間がすぎたころ。ベッドの上で充電しっぱなしのスマートフォンが、軽快な着信音を鳴らした。

 見ると知らない十一桁の番号が、液晶にうかんでいた。