兄の眼をもち、兄の雰囲気を感じるからこそ、彼が特別ではないのだ。第一印象から私は白石刀哉の言動に好感をいだいていた。

 自室に帰り着き、ベッドに体を投げ出した。

 もう何度吐き出したのか分からない。重苦しいため息が、空気にとけて私をいっそう憂鬱にした。

 気もちを切り替えるため、ベッドから離れて本棚のまえに立った。

 本の世界に没頭して、もう白石刀哉のことは忘れようと思った。

 兄が好きだった作家の名前を見つめ、どの背表紙に指をかけようかと吟味する。

 左から順に背表紙をなぞり、その文庫本を選んだのはただの偶然だった。およそ一週間ほどまえに彼から返却された本を棚からぬき、パラパラとページを繰った。

 縦書きされた活字を目に焼き付け、二枚目のしおりで急に紙の動きが止まる。

「なにこれ」

 出版社の名前の入った、なんの変哲もない青いボール紙だ。私のものではないしおりを指でつまみ、裏を返してみた。

 白い余白に『白石刀哉』の名前と、十一桁の『数字』の羅列が手書きでしるされていた。